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評者◆秋竜山
この映画の監督は誰ですか?、の巻
No.2877 ・ 2008年07月12日




 映画にもいろいろあって、監督は誰であるか、まずそれが最初に大切であると思う場合もあれば、監督なんて誰でもいい!! なんて、場合もあったりする。子供の頃は監督なんて誰でもよかった。まったく関心がなかった。出演者とか主役などによって、観たいと思ったりしたものだ。まず、監督という存在そのものを知らなかった。監督を気にするようになったのは大人になってからであった。この監督の映画は観ないわけにはいかない!! なんて。映画はいろいろな観かたがあるものだ。たとえば、「隠し砦の三悪人」という映画。監督黒澤明である。私は黒澤監督の作品の中で、この作品と「どですかでん」が、もっとも好きだ。その「隠し砦の三悪人」は昭和三十三年(一九五八年)、四十八歳の作品であるが、私はこの映画を観たのは、まだ監督なんて誰でもよい少年時代であった。野外でムシロの上に座って村々へ巡回してくる映画であった。雪姫役の〈上原美佐〉にドキドキさせられながら観た。女優でこんな思いをさせられたのは初めてだった。黒澤作品であるとわかったのは大人になってからであった。子供の頃は村の巡回映画だからむづかしい映画は来なかった。むづかしくない映画のたのしさは格別であり、そのような映画には監督名など不要であったようだ。黒澤和子『回想 黒澤明』(中公新書、本体七四〇円)を読む。
 〈黒澤明といえば、世間に流布したイメージは決まっている。百八十センチを超える大男で、なにかといえばすぐ怒鳴る、頑固一徹の独裁者。けれども、そうしたイメージは、父の本当の姿と少し違っている。子供の頃は虚弱体質で感じやすい泣き虫だったし、大人になってからは純真で心やさしいヒューマニストであり続けたのだから。父のことを勝手に決めつけてほしくないという思いが、自分の中で強くなっていった。〉(まえがき)
 この本のたのしさは、黒澤明監督の長女によって、父黒澤明を文章化している点である。娘から見た巨匠の姿である。
 〈何も押しつけることのなかった父だが、本だけは読めという、無言の強要があったことは確かだ。「漫画は手塚治虫のものならいい。ほかは駄目だ。特に、少女漫画はいけない」と母に言いつけていたことは、後年に知った。〉(本書より)
 漫画家として、この一言はショックだ。漫画を読んではいけないといっているようなものだ。と、いうことは、本人は他の漫画を読んだ上でのことだろう。たしかに昔は、そういうこともあった。「漫画は悪書だ」なんて時代だった。それは時代がうむセリフであるだろう。時代が変わると言葉も変わる。だからといって「漫画は良書だ」なんていわないだろうけど、ね。
 〈「自分一代で、人間にどれほどのことができるというんだろうって、インドを訪れたとき思ったんだ。ある年になったら、僕は八十を過ぎたらって思っているんだけど、子供に戻って、天真爛漫に、自由奔放に好き勝手なものを作りたい。無心になって、楽しく映画を作りたいと思っていたんだ」こう語りながら、最後の作品「まあだだよ」を撮っていた父。〉(本書より)
 もしかすると本当の映画たのしさは、監督が誰であるかわからない映画ということになるのかもしれない。







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