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評者◆秋竜山
やっぱりお金か、の巻
No.2875 ・ 2008年06月28日




 テレビの「なんでも鑑定団」の面白さは、プロ鑑定によって、値段が付けられるからだ。やっぱりお金か。値段がわかれば芸術作品の価値も素人にもわかってしまうから面白いのだ。いくら芸術としてすぐれていたとしても、値段が安かったら、「なーんだ」と相手にされなくなってしまう。その反対に値段が高ければ高いほど、ガラクタ作品でも「すごーい」ってことになる。このテレビ番組のせいか、素人の眠がずるくなってしまったようだ。お金で価値を見いだそうというコンタンだ。美術展などでも、作品の値段を貼られてないと、たのしさが半分というところだろう。奥本大三郎『東京美術骨董繁盛記』(中公新書、本体920円)では、十八軒めぐり。
 〈美術品の価値というものは欲しい人によって決まるものであるけれど、関係のない人にとっては値段で示すのがもっとも解りやすい。〉(本書より)
 なんといってもお金より価値あるものはなしだ。お金なんてどーでもよいという人も、一見カッコーいいけど、結局は「それにつけても……」ということになってしまうのである。
 〈私自身もいっぱし、昆虫標本と硯の蒐集家のつもりでいるから、コレクターと骨董商の心情、駆引き、喜こびと苦しみというようなものはよく解る気がする。(略)昆虫標本の場合は本来自然の生き物であるから、贋作というようなものは、蝶の人工による雌雄が産地を詐ったものぐらいしかあり得ないけれど、人の製作物である骨董の場合、それは浜の真砂のように数限りなくあることであろう。〉(本書、あとがき)
 悲喜劇の世界である。素人はそういう舞台を客席から眺めていてたのしめばよい。〈せっかく買って喜んでいた良寛の書を偽物と指摘されて、ただちに日本刀を持ち出して斬り棄てた小林秀雄の気持が解る。〉ということだが、おかしくて笑い出してしまうのである。あの天下の小林秀雄が、ということで笑えてくるのだ。笑うべきことではないかもしれないが、その状況を頭にえがいてみると、脳の働きが「笑い」という命令を下してしまう。笑いというものは恐ろしいものだ!! と思いつつ笑っているのである。小林秀雄という有名人だから笑えるのであって、只の人であったら、笑おうとしても笑えない。それにしても笑いというものは、よく仕組まれたものだねえ。よく考えてみると、美術骨董の世界そのものが笑いの世界であることがわかってくる。美術骨董そのものを笑うのではなく、その美術骨董を取り巻く人たちを笑うのである。その証拠に、マンガに一つのジャンルとしてのテーマを持った世界であるからだ。マンガとして数多くの作品があるはずだ。そして、あのテレビの人気番組「なんでも鑑定団」は、マンガそのものであるということだ。あそこへひっぱり出される作品の数々。そして作者たち。自分の作品をお金で価値づけられるとは、それもテレビで。夢にも思わなかっただろう。高値をつけられた作者は喜こぶだろう。そして「もってのほかだ」と怒り出す作者。気の毒にと思いつつも、大笑いしてしまう。それにしても「なんでも鑑定団」とは面白い。その内に「人間鑑定団」なんてことになってしまうのではなかろうか。「いくらする」なんて値段をつける。







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