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評者◆内堀弘
ひたむきなコレクション──『佐野繁次郎装幀図録』に西村義孝さんが蒐集の苦労話
No.2875 ・ 2008年06月28日




某月某日。もうずいぶん以前のことだが、古書展に『浅間山』(昭7)という岸田国士の戯曲集を出したことがある。これを買って下さった方から後日葉書を頂戴して、「帰ってからよく見たら、あれは普及版とは別に作られた限定版の方でした。佳い本を頒けていただけて感謝しています」というのだった。
 古書展で掘り出し物をしたと自慢げに言う人は多いけれど、こんな直截な文面で礼状を出す人は知らなかった。それが西村義孝さんだった。
 東京古書会館のギャラリーで「佐野繁次郎装幀展」を見た。装幀本約三百点が並ぶのは壮観で、ここに展示されていたのが西村さんのコレクションだった。
 一人の作家ではなく、一人の装幀家を軸に蒐集する。その面白味が見る側にも伝わってくる展覧会だった。
 佐野繁次郎は洋画家だが、本の装幀でも異彩を放っている。書き文字だけを使ったデザイン(私はこれが好きだ)などバリエーションはあるが、どの表紙も何かの部分に見える。一つの絵画作品の部分というだけでなく、たとえば小さなレストランの手書きのメニューや、街角の塀に書かれた落書きなど、街頭の部分をそのまま貼り付けているように見えるのだ。だから、その仕事を一堂に集め、展示することで、初めて感じる広がりがあった。
 この春に出た『佐野繁次郎装幀図録』(『spin』3号・林哲夫編)に西村さんは蒐集の苦労話を披露している。古書展に通い、背文字を追いながら佐野装幀本を探す。これもまた、部分を丁寧に拾っていく作業だ。そういえば巻頭の『浅間山』(岸田国士)も佐野繁次郎の装幀本だった。「それでも古書展へ行きます。行かないと次が見つかりません」と書く西村さんは、普通のサラリーマンだ。そのひたむきな作業によって、はじめて目に出来た風景だった。
 「圧巻でした」。そう声をかけたら、「自分の家では全部広げて見られる場所がないので、私もよく見ておきます」。西村さんはそう言って笑った。







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