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評者◆ベイベー関根
グレート短篇職人 山川直人をもう2冊!
コーヒーもう一杯 第四巻
山川直人
地球の生活
山川直人
No.2874 ・ 2008年06月21日




 げっ、そういえばこの連載では、まだ山川直人をちゃんと取り上げてなかったではないか! いわゆる「いいマンガ」だからなーとか思って手控えていたのは確かなんだけど、しかしやはりいいものはいい! ということで、世に出てからはや2ヶ月経っているのも顧みず、今月は同時刊行された『コーヒーもう一杯』!と『地球の生活』をホメてつかわす! ネタ切れでないことはここで強調しておきたいぞ!「マンガ界の吟遊詩人」と呼ばれて幾星霜、今ではエンターブレインからかなりの量の山川作品がまとめて読めるようになっているのはありがたい。ひと目でそれとわかる木版みたいな線、トーンを極力排するかわりにこれでもかという密度で描かれるカケアミ、短い中にも高度の構成力を誇るストーリーテリング、そして「切なく優しい」などといわれながら、その実、人生に対して光るシビアな目。……なんだ、最高の作家じゃないか! それをこれまで取り上げてこなかったのはいったいどこのどいつだ! でも、『コーヒーもう一杯』!では、過去の諸作品にも増してスルドい切れ味が楽しめるしかけなんで、このタイミング、あながち間違ってないかも?
 いつの間にか飲み会に混じっていたキツネと一緒に帰ることになり、バカされるのではないかと気が気でなくなる「キツネを見破る」。タバコの火の貸し借りから犯罪に巻き込まれることになってしまう「タバコの害について」。自分の部屋を喫茶店にしてしまった友人を気遣ううちにいつしかその世界に惹かれてゆく「喫茶ヨシオ」、迷い猫の足取りを追ううち危険な世界に突入するハードボイルド「探偵物語」……なんだ、めちゃめちゃサスペンスじゃないか! そんで、いうまでもないことだと思うけど、サスペンスがうまいっていうのは、そのまんまマンガがうまいってことだからね! うーん、やっぱ着実に進歩してんだなあ、山川直人は。どこがうまくなってるんだろう?
 で、初期作品集の『地球の生活』を読んでみると、作風は一見そんなに変わってないようでも、両者の違いの秘密みたいなものがわかるかもしんない。
 簡単にいうと、叙情とか感傷に溺れなくなったってことだと思うんだけど、芸術とか青春とか純粋さみたいなことに対する憧れが、『地球の生活』ではわりと生のまんま出てくるのに対して、『コーヒー』ではそれを厳しく対象化する視線があるみたいだなー。大人になったってことなのか、食えるようになって余裕ができたってことなのか。
 とまれ作品には間違いなく深みが加わったと思うんだけど、だからといって『地球の生活』がダメなわけでは全然ないので、そこは誤解なきよう。そういう芸術とか青春とか純粋さに対する距離の危うさが、まあ青臭さといっていいと思うんだけど、それがここではちゃんと魅力になってるからなー。ま、人間たまには遠い目になったっていいじゃないすか!







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