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評者◆秋竜山
連載第964回 人妻に会いたいッ!、の巻
No.2861 ・ 2008年03月08日




 嵐山光三郎『人妻魂』(マガジンハウス、本体一四〇〇円)が面白い。男って困ったものだ。
 〈人妻という言葉ほど男心をコトコトと煮込み、ムラムラといらだたせ、ビリビリとしびれさせるものはありません。背骨に電線が一本埋めこまれたようなシビレ感があるのです。人妻↓官能→嫉妬→不倫→離婚→再婚→流浪→淫乱→堕落→覚醒→心中→自立→遊蕩→熟成→昼寝、と、妄想ははてしなく広がりますが、〉(本書、はじめに)
 人妻にしてみれば、誰がそのようにしたのよ!! と、いうかもしれない。人妻なんて、夫しだいで、どのようにでもなるものよ!! と、いうかもしれない。とにかく、男というものは人妻というヒビキに妄想とあこがれを持つのである。自分の妻とくらべものにならないくらいに人妻っていいなァ!! なんてね。本書は、明治大正昭和の日本文壇重鎮の妻たち53人。目次で、それぞれの妻たちの存在がチラリとわかる。〈明治のマイ・フェア・レディ 逍遙の妻 坪内せん〉とか、〈洋妾と呼ばれた賢夫人 ラフカディオ・ハーンの妻 小泉セツ〉とか。〈じつは超能力妻だった 漱石の妻 夏目鏡子〉だとか、
 〈うっかり隣家の人妻と関係ができて牢獄に入れられた詩人は北原白秋です。〉(本書より)
 この北原白秋という大詩人に生涯に三人の妻がいたことは有名なのかどうかはしらないが、この三人の妻あって白秋あり、なのかどうか、これも有名なのかどうかはしらない。本書でハッキリさせてくれる。〈隣家の人妻はあぶない 白秋の最初の妻 福島俊子〉〈ホトケの人妻は夜叉になる 白秋の二番目の妻 江口章子〉〈不良夫を調教する妻 白秋の三番目の妻 北原菊子〉というタイトルで白秋の妻物語がくりひろげられる。つまりは、白秋という大詩人は芸術的?すけべーであったということか。〈一度離婚した男は、二回めは慎重になりつつも、前妻を忘れるために、逆のタイプの女を捜す傾向があります。北原白秋がそうでした。(略)二年後に、白秋は江口章子と再婚しました。〉そして、三人目となるわけだが、ここからが国民的な誰でもしっている北原白秋になるわけだ。三人目の結婚がなかったら、どーしましょう。
 〈白秋の名が広く知られるようになったのは、童謡によるところが大きく、悪魔的耽美世界から出発した詩人は、少年的抒情世界に転身しました。これは、ひとえに菊子夫人あってのことで、菊子との出会いがなければ、糸の切れた凧となって、白秋は破滅の道を進んでいたかもしれません。白秋は、どこへでも妻と子を連れていくマイホーム・パパになりました〉(本書より)
 めでたし、めでたしで終るような物語となる。だったら、最初っから北原菊子と結婚すればよかったんだ。白秋本人は何というだろうか。「お前らにはわからんことであって、それがわかるのは、私と三人の妻だけだろう」なんて、ね。成功物語は成功の上に成り立っているのである。本書の人妻魂を読むと、こんな女性とめぐりあった運のよい男たちということになるだろう。人妻運というべきだろう。







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