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評者◆秋竜山
連載第963回 その後の鞍馬天狗、の巻
No.2860 ・ 2008年03月01日




 鞍馬天狗といえば、アラカンだろう。そして、杉作といったら、ひばりだろう。嵐寛寿郎と美空ひばりだ。「角兵衛獅子」の美空ひばりである。みなしご杉作役が美空ひばりにピッタリであった。美空ひばりの芸能活動の中で、ひばり角兵衛獅子なくして、美空ひばりは語れない!! なんて、ひばりファンのいいそうなことだ。私が鞍馬天狗を初めて知ったのは、ひばりの角兵衛獅子を観ることによってであって、角兵衛獅子が主役であり鞍馬天狗が脇役であったといってもよいだろう。ひばりの角兵衛獅子を知らないひばりファンは真のひばりファンではなく、二番手のひばりファンである。なんて、いいたがる年齢はひばりの角兵衛獅子を鞍馬天狗の映画の中でリアルタイム体験しているものの、いいたがるウンチクである。大佛次郎『鞍馬天狗(角兵衛獅子)1』(小学館文庫、定価六七〇円)の表紙が伊藤彦造の鞍馬天狗の挿絵からとっている。伊藤彦造の時代物のあの画風のゾクゾクさせるものは、一体本人もゾクゾクしながら描いたのだろうか。鞍馬天狗の最大の人気の理由として、あの頭巾にあった。頭巾で顔をかくしているのだが、誰がみても倉田典膳とわかる。こっちはわかっているが物語の中では誰もわからないという、そこが面白いところだ。推理物ではないから、これでよいのだろう。
 〈私のなかに七十年のこっている姿がある。それは鞍馬天狗であり、彼の助けるみなしご杉作である。大正にうまれて昭和に生きた数億をこえる日本人にとって、事情はおなじではないか。嵐寛寿郎の「鞍馬天狗」にゆきつく人もあろう。作者の大佛次郎はにがわらいするだろうが、アラカンの「鞍馬天狗」は、大佛次郎の原作に数倍する印象を同時代のこどもにきざみつけた。私にとっては、嵐寛寿郎の「鞍馬天狗」を、近所の映画館にまっすぐ通勤して何度も見るほど熱中したものだが、それでも、最初にすりこまれたのは、「少年倶楽部」昭和二年(一九二七年)三月‐昭和三年(一九二八年)五月号の「角兵衛獅子──少年の為の鞍馬天狗」である。挿絵は伊藤彦造で、学齢前のこどもが見ても、血わき肉おどる画風だった。物語と挿絵とが一体となって、五、六歳のこどもをひきこんだ。〉(本書・「鞍馬天狗」おぼえがき[1]──大佛次郎と少年──鶴見俊輔)
 大佛次郎の心境はいかに。いくら国民的人気が出てもアラカンの鞍馬天狗である。「俺の天狗はいったいどこへいってしまったのだ」と、くやしがったと想像しても間違いはないかもしれない。その証拠に原作者の特権として鞍馬天狗の映画をアラカンからうばい取って別の俳優にやらせてみたりした時があったように記憶しているのだが。
 〈原作者は、自分のこさえたものだから自分で終りを書くと座談で言っていたが、最終の作品「天皇の世紀」に時間をとられて、鞍馬天狗の死を書くにいたらなかった。それ以来、鞍馬天狗は読者の中に生きつづけていると思ってもよかろう。〉(右と同じ、鶴見俊輔)
 その後の宮本武蔵ではないけど、その後の鞍馬天狗もあってもよいだろう。その後のアラカンもあってもよいということになるのだろうか。







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