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評者◆秋竜山
連載第962回 川の流れのように、の巻
No.2859 ・ 2008年02月23日




 結局は、あの天才歌手、美空ひばりは、あの歌で終っているわけだ。「川の流れのように」と歌われる、あの歌である。つまりは時間を歌って生命を終えている。歌をつくった作詞家もすごいと思う。もし、あの歌がなかったら、美空ひばりはちょっぴり淋しかったであろう。もっとも、あの歌の歌詞も美空ひばりの最期のためのようでもあり淋しい歌でもあった。都筑卓司『タイムマシンの話──超光速粒子とメタ相対論』(講談社、本体九〇〇円)を読みながら、そんなことを思った。本書、第2章 時間の逆行は可能か の中で〈永遠の問い〉という項目。
 〈時とはなにか……などとまじめな顔でたずねたとしても、それに対してまともな解答が返ってくるとは期待できない。「少し頭がおかしいのではないか」と言われないまでも、よほどのひま人か、気苦労のない人間だと思われるのがおちである。ものを考えるほどの人なら誰でも、そんなことよりもほかに、心配しなければならない材料は山ほどあるのだから。〉(本書より)
 たしかに、そーかも知れない。日常会話の中で、「時とは何ぞや」なんて質問するなんてことはないだろう。「コノヤロー俺を馬鹿にしているのか!!」なんて、言われても仕方がないだろう。
 〈時とはなににかということは、ギリシャ時代の昔から話題になっていた。もっとも古代のギリシャ人は、考えることだけが唯一の趣味であった……ようなところもあるから、〝時〟という抽象物は彼らにとって、思索の対象物としてうってつけの材料であったのかもしれない。〉(本書より)
 古代ギリシャ時代から今日まで〝時〟というものは解決していないようだ。で、美空ひばりだが、あの、川の流れのようにという絶唱歌でジーンとさせられたものだが、
 〈「行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」とは「方丈記」の言葉だが、ギリシアの哲学者ヘラクレイトスも、去り往く〝とき〟を流れ去る川の水にたとえて、川に足を踏み入れている人間は誰もが同じ水には二度とひたれないことを説き、その弟子クラチルスは、人間とは時間という河畔にたたずむ傍観者であると考えて、川の水だけが時間と同じように人の存在に関係なく、ただ無心に動いていく……という比喩を用いている。〉(本書より)
 タイムマシンから美空ひばりが飛び出したようなものだ。今、私が時の経過というか、時間の早さにふりまわされていることは、実感としては、家の雨戸の開けしめである。「さっき、開けたと思ったら、もうしめるのか」「しめたと思ったらもう開けるのか」それに、かかりあっているようだ。
 〈アインシュタインは相対論を発表すると同時に、一つの宇宙模型を提唱したが、これによると三次元の空間の方は閉じてまるくつながっているが、時間の方は過去から未来にかけて真っ直ぐに伸びている。(略)これに対して一九二〇年頃(一般相対論のすぐあと)ド・ジッターは時間さえもが、まるく閉じている…と考えている。つまり四次元の空間(空間の三次元と時間の一次元)が球の表面のように湾曲してつながっており、切れ目というものがない。〉(本書より)
 どっちかわからない。川の流れのように時間は海にむかってのびている。時間とは、その海にナゾがあるのかしら。







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