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評者◆秋竜山
連載第959回 「霊園の鬼太郎」、の巻
No.2856 ・ 2008年02月02日




 アッという間の遠き時代、貸本屋さんというのがあり、貸本まんがが並べられていた。「生まれてなかったよ」という人が多くなった。「知っている」という人が少なくなった。「忘れてしまった」という人も「はじめっから知らなかった」と、いろいろだ。水木しげるの代表作「ゲゲゲの鬼太郎」が「墓場鬼太郎」というネームで貸本屋さんに並べられていた。今日、復刻版として新刊されるのは、実際に貸本まんが時代があったことの証明ともなる。このような時代の漫画を知っている人は知っているし知らない人は知らないという中での漫画ブームである。貸本漫画家として有名な水木しげる先生も、もっと前のすごい時代、紙芝居時代。水木先生は紙芝居作家であった。もうそれだけでも人間国宝級である。今、にわかに紙芝居が認められたというか、発見したように人気がたかまりつつあるようだ。貸本まんがも、紙芝居も、たんなるなつかしさだけのものではないだろう。水木しげる『貸本まんが復刻版──墓場鬼太郎1~6』(角川文庫、本体各八一九円)は、以前にも復刻として刊行された単行本であったが、文庫化されたものだ。「墓場鬼太郎」がいつ頃から「ゲゲゲの鬼太郎」になったのか勉強不足であるが、墓場からゲゲゲになることにより今日性を保つことになったのだろう。「墓場鬼太郎」時代には、墓場という普段行くところではないような薄気味悪い世界であった。あの怖さが「墓場鬼太郎」の舞台としてもり上げてくれた。ところが、今日はどうだろうか。墓地とか墓場とか、新聞チラシにはそんな文字はなく、明るい霊園となっていて、ピクニックコースでもある。まさか「霊園の鬼太郎」というわけにもいかないだろう。それがいつの間にか、「ゲゲゲの鬼太郎」になっていたことによって、この漫画は今でも大モテである。
 〈「妖奇伝」というのは、中篇「墓場の鬼太郎」の入った〝本〟の名前である。まァ、売れればずっと出すつもりだった怪奇短篇集の本の名であったが、どうしたわけか〝力作〟のわりには売れず。無知な貸本出版社の親父は「まァみてくれ」といって、倉庫で山のように積まれた返本をみせてくれて、結局二冊で打切りとなった。即ち「墓場の鬼太郎」は登場、第一回でダウンしたわけである。(略)世の中によく「魔がさす」という言葉があり、いきなり人を殺したり万引したりすることがあるが、考えてみると、「魔がさす」といって悪魔が人間をその方に導くことがあるならば、神が人間を導く「神がさす」ということもあっていいはずだ。即ち、人間では分からないがつい良いことをしてしまう、といったことだ。〉(本書より)
 「ねずみ男」も「墓場鬼太郎2、下宿屋」で初登場している。その姿形も今日ではすっかり芸術的なスタイルになっている。長く作品に登場することによって、そのようなスタイル化するのだろう。「ねずみ男」は「ひらめき」によって生まれたのだろうか。「魔がさす」というより「神がさす」ほうだろう。「神がさす」キャラクターは息が長いが、「魔がさす」ことによってうまれたキャラクターは息が短かい。なんて、ことはあるだろうか。作者にしては出来の悪いキャラクターほどかわいいとか……。







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