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映画
直接民主主義的所得再分配
書籍・作品名 : ハスラーズ
著者・制作者名 : ローリン・スカファリア監督 米 2020年2月日本公開  
すすむA   59才   男性   





ポールダンスは数多くの映画に登場する。日本では『軽蔑』(2011年)で鈴木杏がなかなか見せてくれていたのが記憶に新しいが、今回のジェニファー・ロペスは本当に凄い。ポールを男性に擬すそのエロティックな演技にまずしびれた。この映画でもトップダンサーのラモーナ・ヴェガ(ジェニファー・ロペス)がディスティニー(コンスタンス・ウー)や他の仲間たちにポールダンスを仕込む場面があるが、皆出来ない。そりゃ当たり前だろう。

ステージで稼げるダンサーと稼げないダンサーの差は明らかだ。個人営業の彼女らにはそれぞれの生活が重くのしかかっており、それらを表情に出さない「演技力」も求められる。女に盛大に金をばらまく男たちも同じように演技しているのだろう。金をちらつかせて虚勢を張る男と金を求めて媚びる女は金融資本主義の極致を象徴する。、われわれ日本の男たちも、今思えばバブル時代には、これとは規模の違う(みみっちい)夢のひと時を味わっていた。費用は会社持ちで。

キャッチセール、睡眠薬による誘乱、カードによる高額請求、どれも日本でもおなじみの悪徳バー商法だが、日本ではそのすべてに男が絡み、女は単なる「下働き」に過ぎなかった。この映画が凄いのは企画、セールス、「売上」金の回収まで、その全て女性たちが運営するところだ。リーダーのラモーナをCFOと呼び、事務所を構える。ここは2008年のリーマンショックの後も、あこぎに稼ぎ続ける株屋たちと同じ発想である。「法人」組織にすれば、金を強奪することに対しての「個人的な」良心の痛みも軽減されるというわけだ。ストリップガールは直接民主主義制による所得再分配を行っているとも読める。

出てくる男たちは、素面の時はアメリカ型ハゲタカ資本主義を牽引している猛者なのだろうが、酒場ではどれもこれもが安っぽく、緊張を欠いた馬鹿面である。こんな場所でしかストレスを解消できないのだろうと同情も湧くのだが、カッコいい女におだてられるとあそこ迄になってしまうのか、そんな時の自分の表情は良く判らないので、反面教師を観る思いもあった。彼らは(我々は)そのくせ「虚栄心」だけはいっぱし高く、身上を潰すほどぼられたと知っても警察に届けたりはしない。女たちはそんな男の心理をあくどく利用する。最後に彼女たちが挙げられてしまうのは、絞り取られ過ぎて、男性性すら回復できなくなったある男の通報によるものだったというだのが、警察に通報する男の惨めな「表情」に、男女本来の特性が逆転しまっている面白さを感じる。

女たちには学力もなければ資力もない。ディスティニーがショウの合間に通信教育で高卒の資格を取ろうと奮闘しているシーンはいじらしかった。映画は後半になって、これが逮捕・拘留の後で雑誌記者によるインタビューで語った内容によっていると判る。物語がマスメディアと言う「公平性」に担保されているというわけだ。記者はしきりに昔の仲間との再会を促すのだが、これが最後のクライマックスとなる。その記者と対面しているディスティニーの家が日本人の感覚から言えば「中の上」あたりで、娘も幸せそうであるのに安堵する。所詮は「あぶく」のように稼いだ金の分け前をちょっと頂いただけだ。女性監督になる本作品が道義的な面に落ち込んでしまわないのが嬉しかった。






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