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文学
『マクベス』を通して考える「欲」の危険性と「自制」の必要性
書籍・作品名 : マクベス
著者・制作者名 : ウィリアムシェイクスピア  
ゆさ   19才   男性   





皆さんは、「欲」の恐ろしさについて考えたことはあるでしょうか。欲は人間誰しもが持つものであり、人間は、極端に言えばその欲に従うことで人生を形作ります。「きれいは汚い 汚いはきれい」これは欲の本質について一見すると複雑に、しかし最も単純に示された『マクベス』の一文ですが、この言葉について理解し、また欲というものが私たちに及ぼしうる危険性を理解するには、まずマクベスという男の生涯を説明しなければなりません。以下にはあらすじをまとめました。
彼は勇猛果敢な将軍であり、主君に仕える忠実な部下だった。ある時三人の魔女が現れ、マクベスに「万歳、コーダー(地方)の領主」「万歳、いずれ王になるお方」と突如として予言を行う。マクベスは半信半疑ながらも自分が王になることに一抹の希望を抱いていた。そして王子が王になることを告げられ、自分が王になれる可能性が潰えることを知ると、それまで忠臣として超えてはならない一線で思い留まっていたマクベスの気持ちは王を含めた関係者を皆殺しにすることへと傾いた。マクベスは王を殺害し、晴れて王の座へ座ることができるようになったわけだが、罪悪感から心を病み、自分を脅かす者を皆消してしまおうと魔女に再び助言を求める。そのころイングランドに亡命していた王子マルコムの要請によりイングランド軍が進軍してくる。マクベスもマクベス夫人も内心は王の殺害を後悔しており、マクベス夫人は精神に異常をきたし始め、ついに夫人は自殺してしまう。マクベス本人も魔女の予言に従い戦いに挑むも「バーナムの森が動かない限り安泰だ」という予言はイングランド軍が森に擬態して進軍してきたため外れ、「女が生んだものには自分を倒せない」という予言は相手が帝王切開で生まれたため裏切られ、最後の決闘では味方、予言、すべてに裏切られたことへの失意の中、なかばやけくそで戦死した。結局、彼の王としての在位期間はとても短いものだった。
彼はおそらく本当に優秀で忠実な部下だったのでしょう。ならば彼が王を殺害し、王の座を奪うことになってしまったのはなぜか、それはおそらく、彼の奥底に眠る、「本来叶えることのできない、しかし本当は叶えたい王の座につくという欲望」が何としても叶えねばならないと彼に働きかけたからではないでしょうか。また、王になることのできるチャンスを逃してしまうかもしれないという時間的制約が欲を増幅させ、彼を耐えられなくしてしまい、そして夫人が夫に勇猛な「男」であることを強調して自分の決めた行いはまっとうするように強制したこともマクベスの行いの要因となっているのです。ですがこれには夫人の王妃になりたいという目論見が含まれており、彼女もまた、結局は欲に従ってマクベスを利用したにすぎないのです。しかし結果はあらすじ通り、欲にのまれたマクベス夫妻は簡単に過ちを犯し、後悔しながらも決して戻ることのできない橋を渡ってしまったため、結局は自らの行いで自らの身を亡ぼしてしまいました。
ここから分かることは、欲に従って得たもの、特に犯罪や邪悪な手段でもって手に入れた地位や名声は簡単に瓦解するということであり、また、私たちの中に眠る欲は、時として容易く私たちの平穏をぶち壊しにする危険性を孕んでいるということです。
そして、これを基に冒頭の言葉「きれいは汚い 汚いはきれい」を見てみましょう。これは劇中で魔女が発した言葉です。魔女は劇中ではマクベスに予言を行い、破滅に追いやるきっかけをつくった人物として描かれていますが、彼女たちは神や善人の対比として位置付けられていて、善人が忌み嫌うようなことこそが彼女らのとっての至上の正義なのです。つまり、「きれいは汚い 汚いはきれい」とは誰かにとっての正義は、誰かにとっての悪ということであり、マクベスのように欲に従って己の正義を振りかざすことも、見方を変えれば正義なのだという、悪を正義として正当化しまう欲の恐ろしい本質を表している言葉だということが分かるかと思います。だから、欲に呑まれることは、自分の良心に反して行動することを強いられるばかりか、本人も気づかぬうちに偽りの正義を本物だと勘違いして良心さえも見失い、間違いに気づかないことになり得るのです。
私たちは急速に発展する社会の中で、欲を掻き立てられることが数多くあるかと思います。SNSなどで他人の言論を弾圧するような人も多く見かけます。しかし、本当にそれは正義と呼べるでしょうか。先ほども述べたように欲に身を任せれば自滅はあっという間にやってきます。その前に、私たちは欲のままに行動することを一旦止め、自分の正義は他人にとっても正義なのか考え、自制をしていくことが必要なのです。






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