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文学
かけがえのなかった時間
書籍・作品名 : 四月になれば彼女は
著者・制作者名 : 川村元気  
川の主   34才   男性   





 人の感情はコロコロ変わる、それでいて曖昧なものだと思う。
 恋愛感情もそうだ。もしかすると、人間が抱く感情の中で、一番わかりにくいものかも知れない。
 当初は好きだった。それなのに、あるとき嫌いになってしまった。もう好きではなくなった。そもそも、自分は本当に相手のことが好きだったのか。そう思い込んでいただけかも知れない。単に「恋」に恋していただけではないのか。こんな風に悩んだことはないだろうか。
 恋愛感情はずっと続くものではない。だいたいは数年で終わるという。恋は盲目だ。相手の良い面ばかりが見える。悪いところはさほど気にならない。それは脳が見せる幻覚かも知れない。幻覚が消えたとき、果たしてその人と一緒に居続けることはできるだろうか。
 仮にお互いが好き同士のままでも、別れを選ぶしかない場合もある。「四月になれば彼女は」の藤代とハルはそうだった。
 藤代とハルは大学の写真部で出会い、その後に付き合い始める。しかし、あることがきっかけで別れてしまう。その後は音信不通となっていたが、9年ほど経ったあるとき、藤代の元へハルから一通の手紙が届く。
 手紙には自身が海外にいることと、現在の心情が書き綴られていた。なぜ、ハルは突然に手紙を送ってきたのか。
 その頃の藤代は精神科医になっており、結婚の約束をしている獣医師の弥生という恋人がいる。藤代は本当に弥生が好きなのかがわからなくなっていた。二人の女性のことで藤代の心情は揺れ動く。
 ずっと変わらないものなんてない。どちらの女性も一度は間違いなく藤代が好きになった女性である。
 この小説は甘酸っぱい恋愛ものではなく、むしろ対極にあるだろう。
 人生の中では一瞬だったかもしれない、それでも大切だった時間。そんな宝物を持っていた自分。
 藤代もハルも弥生もすでに失ってしまったもの。これは「恋」のあとの話である。
 最後にハルが藤代へ送った手紙の内容がとくに印象的に感じた。それを読んだ藤代がどんな道を選ぶのか。
 ぜひ本書を読んで確かめて欲しい。






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