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文学
イメージの氾濫・反乱
書籍・作品名 : イサの氾濫
著者・制作者名 : 木村友祐  
いなり寿司   59才   男性   





この小説には錯綜したいろいろな感情がうまく描かれているな、と思うのですが、イサのイメージと並置して書かれている将司と小夜子のやり取りが悲しくて、やり切れないのです。現在の小夜子の言葉、存在に、自分の職務上の、または生きていく上でのうしろめたさを突かれた将司が、ちっぽけな正義感から小夜子のやるせない心情を暴いてしまう。これはある意味「復讐」なのかも知れませんが、あまりにも残酷ではないか、と感じました。イサの復讐とも重ね合わせて、正義の名のもとに欺瞞を暴く行為の砂のような味気無さと不毛さが描かれており、イメージ上の復讐は可能だけれども、行為としては復讐をしてはいかんのではないかと感じました。片方の足は復讐のイメージの上に立ち、もう片方の足は地に足の着いた生活にあるべきだ、という主張をしてもいいのではないでしょうか。東北の人はそうやって生きてきた、と作者は言いたいのではないでしょうか。イメージのイサと現実の勇雄。荒くれの魂を引き継いで、西国への復讐を遂げる将司のイメージ。これはイメージ上で果たされた復讐なんですね。この小説は、東北の人の心を揺さぶる小説として書かれたのではないか、と思うのです。それと同時に、支配層として君臨する現代の都会の人間の欺瞞を暴くわけです。「心が弱いやつだな」「騙せるぞ」という現代の欺瞞のパターン(隠喩)ですね。それでもやはり登場人物の語り(会話)は、拠って立つところが明確で、勇雄と周囲の人達の愛憎の深さや人間的な魅力など、錯綜する感情が生き生きと描かれていると思います。方言での表現がとてもいいな、と思います。もちろん、このような心情は、震災と原発事故という契機によって明らかにされるわけですけれども。私がこのように書くのは、この小説のメッセージ性の強さゆえであり、また同時に、読んでいる私もメッセージ性にのみこだわっていないためだと思います。






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