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評者◆秋竜山
寅さん映画は哀しいよ、の巻
No.3454 ・ 2020年07月04日




■寅さん映画は封切りのたびに映画館で観ていた。笑わせる寅さんがたのしみであった。まさに、喜劇であった。そして、今は寅さん物のビデオを全巻そろえて、茶の間で気のむくままに観ている。そこで私にとって寅さん映画の観かたというか、とらえかたが変化しはじめたのである。昔から映画館で他の客たちと一緒になって笑えていたのに、茶の間で観ていると、笑えなくなったのだ。これは、大変なことである。私は、笑うためにたのしみにしていたのであるからだ。笑うというよりも、観ていて、そして観終わった時、しんみりしてしまうのだ。そして、もしかすると、私は寅さん映画が喜劇であると思っていたが、実は、そうではなくて悲劇物ではなかろうかという、大発見のようにも思えてきたのである。その原因は、毎回寅さんがマドンナに失恋して終わるという結末であるからだ。その、ふられかたが毎回笑えたのに、どうして哀しくなってしまうのか。人の不幸は蜜の味というたとえがある。そういうものかもしれない。ところが寅さんに限っては毎回決まっているように、運命的にふられてしまうのだ。今までそれがなぜ笑えたのか、そして、今笑えるどころか一緒になって泣きたいような。ふられて旅へ出るしかない寅さんの心情にホロリとさせられるのである。そういう意味で、喜劇が悲劇に転じたということである。喜劇と悲劇は紙一えというが、そういうものかもしれない。
 それから、寅さん映画で、もう一つの発見があった。プロローグというのか本編が始まる前の寅さんの夢である。旅さきのどこかしらない土地で、ベンチに横たわって、うたたねをしている寅さん。本来夢というものは、夢を見ているその人だけのものである。どんな夢なのか、その人しか知らない。そして、寅さんの昼寝というべきか、うたたねの中で見ている夢である。自分の家の茶の間で見ている夢ではない。自分がどこにいるかわからないような地方の土地で見ている夢であることだ。ちょっと考えさせられるような、うらやましささえある。自分に寅さんのような夢を見ることができるかというと、一〇〇%できるわけがない。寅さんのうたたねの夢は瞬間の眠りの中にあらわれるのである。寅さん映画では、その夢の内容を知らせてくれる。そして、夢というものは、必ずどのような内容であったか忘れるようにできている。忘れるから夢なのか。そして、寅さんが一瞬の夢を見終わった後、目がさめる時である。
 志村史夫『いやでも物理が面白くなる』(講談社ブルーバックス、本体一一〇〇円)では、
 〈ニュートンが木から落ちたリンゴを見て、それを万有引力の大発見につなげたのは1665年頃のことらしい。日本では江戸期、4代将軍、家綱の時代である。(略)リンゴの木から(もちろんリンゴに限らず、なんであれ高い所から下方)落ちるのは、リンゴが重力という力に引かれるからである。と説明される。ならば、重力とはいったい何なのか。(略)とにかく自然界にはそういう力が存在するのだということで先に進むことにしよう。〉(本書より)
 寅さんは夢からさめる時、頭がコトンと下へ落ちる。そこから本編の映画は始まるのだ。夢からさめたところから……と、いうのが面白い。







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