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評者◆秋竜山
ハエよウジよ、の巻
No.3452 ・ 2020年06月20日




■先週、書き切れなかったので続きという形である。小山慶太『〈どんでん返し〉の科学史――蘇る錬金術、天動説、自然発生説』(中公新書、本体八二〇円)を、再度引用させていただきます(スミマセン)。
 新型コロナウイルスで地球上が戦々きょうようとしているなか、「ウジ」についてである。ウジどころの騒ぎではないかもしれない。今の若い人たちは、「ウジ」など見たことがないかもしれない。そういう時代になったということである。そう考えると、時代というものを感じさせる。時代というものの、なつかしさである。「ウジ」のいない世の中になった(どこかに、ひっそりといるかもしれないけど)。私の子供の頃には、どこの家庭にも「ウジ」がいて、一緒に共に生活してきたものであった。私の家にもいた。それなのに、どーしていなくなってしまったのか。衛生的においても絶滅の政策がとられた結果だと思う。あんなにいた「ウジ」が一匹もいなくなったしまったことは、「ウジ」好きの人にとっては、かなしみ以外あるまい。人間のザンコクさは恐ろしささえおぼえてしまうのである。
 〈自然発生を棲息環境と短絡させる例として、食べ物が腐敗するとウジがわくという現象がある(「男やもめにウジがわき、女やもめに花が咲く」という表現をふと思い出す)〉(本書より)
 男やもめとは、チョンガーのひとり暮らしということである。なぜ、男のひとり暮らしにウジがわくのか、理解できないものがある。女やもめに花が咲くといわれたが、それは、いえるだろう。昔も今も変わらないと思う。ところが、男のひとり暮らしも女のひとり暮らしもまったく変わらない時代になったということである。男やもめに花が咲く、といってもいいかもしれない。そういう男やもめがふえたというべきだろうか。
 〈一六六八年、イタリアのレディはこれを検証する実験を行った。レディは肉を入れたフラスコを八個用意し、四個は口を密封、残りの四個は口を開けたままにし、空気に触れるようにしておいた。すると、ウジは開封したフラスコの中にしか発生しなかった。密封したフラスコの中の肉は腐るものの、ウジは生まれなかったのである。〉(本書より)
 アア……昔のある意味においてはよき時代、トイレなどといわず便所といった頃、ウジは便所の主役であった。便所だからウジがわくのではなく、便所にあるウンコにウジがわくのであった(実にあたりまえのことを書いているようだ)。
 〈ウジは腐った肉片が変化するのではなく、フラスコに入ってきたハエが産みつけた卵から生じるのであるが、ハエの卵が小さすぎるため、その存在に気がつかなかっただけと結論づけたのである。条件の異なるフラスコを四本ずつ、異なる環境(ハエが入れるか否か)のもとに置いてウジの発生を検証したレディの実験は科学的であり、(略)説得力が感じられる。〉(本書より)
 ウジがまったくいなくなった時代と共にハエもいなくなった。いや、ハエがいなくなったからウジもいなくなったのか。便所がトイレと呼び名が変わり、水洗トイレとなって、出たウンコを即座に水で流してしまうから、ハエも、そしてウジも、ということになってしまったのだろう。ハエがいなくなればハエ叩きもいらなくなってしまう。ハエ叩きでピシャリ!! とやる風情も今は見たくても見ることはできない。







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