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評者◆越田秀男
親しみやすく奥深い俳句の世界(「異土」「イリプス」「コールサック」)――虚構によりどれほど生活の実相に迫れるか、作家達が舞う
No.3450 ・ 2020年06月06日




■吉澤章、一枚の折り紙からハサミも使わず造形する。この課された制約が、俳句の季語や17文字に通じるとされる。親しみやすく奥深い俳句の世界……。
 『月明り、青い咳する――俳人住宅顕信』(月野惠子/異土18号)――夭折の俳人が詠んだ句は“自由律俳句”。季語や17文字から解き放される、でもそれって俳句? 荻原井泉水の示した心得には「句体は 一作一律の自在を志向すべし」。顕信の遺句集「未完成」から――〽日傘の影うすく恋をしている――病室の窓から見舞いに来た女性を臨む。影が仄かな色づきを映す。影ではこんな句も――〽影もそまつな食事をしている――病院食。
 『東京の裾をめくる――出口善子句集「婆羅」』(坪内稔典/イリプス二期30号――〽干柿は死者の体温それを噛む――ギョ! ギャ! 「詩とは言葉が快楽をもたらすものだ」と坪内さん。次の句――〽東京の裾めくり上げ春一番――マリリン・モンロー!?――「妖怪というか、巨大な老婆」と褒め称えた。
 『東北発・若手俳人達の対話――俳誌「むじな2019」を読む』(鈴木光影/コールサック101号)――大災害に限らず、強度のストレス障害を来す事象に対して、俳句は心の避難場所として機能している。と同時に、その心が伝わっているのかどうかの不安も生まれる。SNSで「いいね」ではすまされない。TVのプレバト番組の方が意義深い? 他者からの評価、その中で「俳句を作る行為そのものに『表現する喜び』を見出し」ていくことを、若者達に期待した。
 活き活きと生きたいがままならない人生、虚構によりどれほどこの生活の実相に迫れるか、作家達が舞う。
 『消された男』(水口道子/あらら11号)――とある住宅街にゴミ屋敷、その家から死後8日も経った女の遺体が。夫が住んでいる! 殺人? 警察は事件性なしで引き上げる。順々にそのワケが明かされてくると、この夫婦と死んだ娘の不幸の塊のごとき生涯が浮き彫りに。残された夫は入所施設に。オ爺捨山? が、男は終の住処で活き処を見出す。このラストが作品のミソ。
 『太郎と踊ろう』(宇野健蔵/じゅん文学102)――零細な建設コンサルタント会社に勤める就職氷河期世代の主人公。会社から車で三時間もかかる建設用地の発掘調査を任される――長雨、期限の切迫、突然の梅雨明け、猛暑、過酷な作業、現場作業員との擦った揉んだは、危なくもユーモラス。一日が終わり、明日は休日、「何となく良い一日だった」、仕事も活、作品も活。
 『茶箱』(小松原蘭/季刊遠近73号)――幼なじみの主人公と従兄は成長し恋仲になるが、主人公はイトコ同士が気になりはじめ、親側の事情もあり、心に反して関係を絶つ。と、従兄は病死。物語は下り、主人公と母は父を看取り、母も超高齢に、介護付き老人ホームの話が現実化する。一旦は母の入所を決めた主人公、過去の自身への蟠りが膨らみ、困難でも母と暮らす道をとる。
 『たとえば地獄の底が抜けたなら』(玉置伸在/カプリチオ50号)――日雇い労働者の主人公、泥酔してひき逃げ事故に遭い、奈落の底。と、生活保護も受けずに生き永らえている老人と仲良くなり、この老人が時折発する“たとえ話”に惹かれる――「俺たちは野生の王国にいるんだ」。主人公はこの言葉に地獄の底から抜け出る道を感じ取る。動物園の檻の中よりまし?
 『負け犬』(瀬崎峰永/ふくやま文学32号)――父に愛され父を愛する娘が強姦される事態に、父は手のひらを返すように娘を詰り疎んじる。娘は極度のストレス障害に陥り、やがて公衆便所脇の路上生活者、自殺未遂で病院に。担当医は父との関係修復を目差すも、裏目に出て自死。父からの完全離脱こそが、彼女の唯一の活路だった。
 『マンタとの再会』(國吉高史/南溟8号)――「皆何処へ行ったかね」という老婆の言葉ではじまる。老婆の娘は18の歳で強姦され、産んだ子を母に託し本土に出奔。孫娘はその容姿から差別を受けるも耐え、婚約者を得る。が、難病を発症、婚約解消、40にして病が重篤化、延命策で足切断、半年後死去。わずかな“命”の時、本土で生まれ育った弟が母の死の知らせとともに訪れ、孫娘と婆にささやかな“活”を贈った。
 『兵詩』(城戸祐介/九州文學572号)――バラバラになった自分の死体を自分が覗き見るシーンから始まるこの作品は、これから敵地に向かう時空へ舞い戻るところで終わる。生き返ると同じ時空、無限魔か。
 1946年12月20日創刊の「文学雑誌」、91号にて休刊。1977年8月20日創刊の「法螺」、80号にて終刊。
(「風の森」同人)







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