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評者◆秋竜山
居眠りの快楽はすてがたい、の巻
No.3447 ・ 2020年05月09日




■精神の、ぶったるみによって居眠りがでるのだろうか。いずれにせよ、居眠りというものはイメージがよくない。立派な人でも、居眠りをする。さけられないものがある。その一因は、つまらないから、面白くないことからくる生理現象ではなかろうか。大体において、面白くてアハハと笑っている最中に居眠りすることはありえないだろう。落語を聞いていて、ゲラゲラ笑いながら居眠りしている人などみたことがない。つまらないと居眠りがでる。どーにもならなくなった時、居眠り状態にはいってしまうのではなかろうか。一つの例として、よく国会議員が、居眠りしている姿をテレビカメラはとらえるが、会議が面白くなく、つまらない時のようである。眠気をもよおす生理的現象であることは間違いあるまい。そんな姿をテレビで全国放映されたら、たとえそーであってもこれはその政治家に私は同情する。気の毒である。居眠りほどコッケイで笑いをさそうものはない。テレビのザンコクなところは、一瞬たりとも見のがさないところである。この政治家は一年中居眠りばかりしているというイメージをぬぐいさることは不可能であろう。テレビを観ていて、「また、居眠りをはじめるぞ」と、思う矢先にはじめてしまう。井出洋一郎『知れば知るほど面白い 聖書の“名画”』(角川文庫、本体七二〇円)では、居眠りのことをふれている。
 〈エルサレムの郊外、オリーブ山の麓ゲッセマネに弟子のヨハネ、ペテロ、ヤコブを連れてキリストは、「一緒に目を覚ましているように」と見張りを命じて、離れたところで一人ひれ伏して神に祈った。「父なる神よ、できることなら、この杯を取り払ってください。けれど私の願いではなく、あなたの御心のままにしてください」(「マタイの福音書」26章36―39節〉(本書より)
 “名画”にはキリストが一人で神に祈っているあいだ、三人の弟子たちは、あおむけになって居眠りをしている姿が描かれてある。
 〈選んで連れてきた三人の弟子たちは、主であるキリストの苦しみをよそに、寝汚く居眠りを決め込んでしまう。それもキリストから三回注意されて、「心は燃えても、肉体は弱い」ことを証明してしまう。これも真理を穿った言葉であり、絵画表現としてもよく描かれている。〉(本書より)
 居眠りは快楽である。会議中に居眠りする政治家。「心は燃えている」はずである。しかしながら「肉体が弱い」というのだろうか。居眠りという動作は、「では、居眠りさせていただきます」と、無言のことわりの中から決行するものではなく、自分のしらない間に、居眠りにはいってしまうのが通常である。ベッドの中で睡眠をとる時は、「サテ、これから眠るとするか」と、自分にナットクの上、いい聞かせて号令のようなものをかけて、眠りにはいっていくのである。だから睡眠と居眠りとは本質的にまったくの別ものであるだろう。キリストが政治家の居眠りをみて、なんというか。「もーいい。眠りたいだけ眠るがよい。アーメン」だろうか。居眠りがよいと思っている政治家は一人もいないだろう。居眠りがなぜ悪い!! などという政治家も一人もいないと思う。悪いと思いつつ、残念ながらどーにもならない。キリストのいうように肉体が弱いから仕方がないのである。これは政治家だけの問題ではないだろう。みんな、そーである。肉体が弱いからである。「心は燃えている」のに。一番困るのは、「心が燃えていない」で、「肉体が強い」ということだ。居眠りの快楽はすてがたいものである。どーにもならない気持のよさである。







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