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評者◆秋竜山
なつかしい面がまえ、の巻
No.3440 ・ 2020年03月21日




■日本史の謎検証委員会編『最新研究でわかった 幕末 通説のウソ』(彩図社、本体八八〇円)に、四、五十人の昔の日本人の集合写真が掲載されている。
 〈オランダ出身の宣教師フルバッキとその子どもを囲む日本人たち。モデルについては諸説があるが、明治元(1868)年に佐賀藩が長崎に設けた英学校の学生たちを撮ったものだと考えられる〉(本書より)
 と、説明されている。当時の日本人の若きサムライたちである。手には日本刀を携えている。着物姿である。どの顔も日本人そのものの顔をしている。同じような顔だちである。正しい日本人の顔はこうであることを物語っているようでもある。現代人の日本人の顔とはおよそ異なる。昔の日本人の顔は古風というか古くさい顔つきである。どの顔も同じような表情をしている。なんとなく目は狐目のようで口はへの字にむすんでいる。地球上からみると小さ過ぎる程の島国に、どこの国とくらべても日本人そのものの日本の土にみあったような土くさい顔である。それが日本人のなつかしくもある面がまえである。四、五十代の顔にみえる老け顔である。白黒写真であるから、ことさら、そのように見えてしまう。全員、男性であり、青年たちだ。怖い顔に見えるのは、まったく表情がないこともあり、その時代性だからであろう。現代人からみると、怒ったような表情である。サムライであるから、このような顔になってしまうのか。まさに現代風の写真顔とは違う。現代のような「ハイ、チーズ」パチリ!! ではない。写真顔といえば笑った顔となるところだが、サムライの顔には笑い顔はないだろう。サムライ顔でなくても当時の日本人の顔というのは、こんな顔であろう。
 いつ頃からだろうか、日本人の写真顔が笑った顔になったのは。怒ったような顔にはシャッターを切れないのが正しい写真顔であり、写真の表情でもある。思い出してみると、昔の私が子供の頃、当時の大人たちのどの顔も、何を怒っているのかしらないが、そんな顔つきであった。昔顔をひきずっているような顔であった。それが普通の大人の顔であった。それが日本人の顔であるなどという意識はまったくなかったのである。もちろん、笑顔もあるが、顔が顔だけに現代人のようなくずした笑顔ではなかった。それが日本人の歴史における顔であったのだろう。日本人の顔つきも、知らない間に時代とともに進化したのか退化したのか、時代の風にふかれて、このような顔になってしまったのだろう。外国人には日本人を不気味にうつったようにみられても当然であろう。
 本書に掲載されている日本人の姿を見ると、やっぱり異様だ。外国人でなくても、日本人であっても、昔の日本人の姿は異様である。本書による、維新の三傑のひとり大久保利通の若き姿も着物で右側に日本刀が置かれてあり、怖いとしか思えない写真である。〈坂本龍馬と、龍馬が組織した海援隊のメンバー〉の写真も現代の写真であったなら、このようには撮らないだろうとしか思えない雰囲気である。〈沖田の姉ミツ〉の写真も、日本のお婆さまといった、昔の女性は年をとると、みんなこのような顔立ちになると思わせるものである。私の子供の頃には村のお年寄りのお婆さんは、みんなこのような顔をしていたようだ。それを想うと今では妙になつかしい。近藤勇の写真姿も、日本人であることはすぐわかるが、今ではこのような日本人にはお目にかかれない、すごみがある。
 そのように、昔の人の日本人と今の人の日本人との違いは、もしかすると、話し声まで違うのではないかと思われる。そして、笑い顔や笑い声までも違うだろう。歌は世につれ、というが、笑い声も世につれ、ではなかろうか。







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