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評者◆凪一木
その27 振り回される試験対策
No.3428 ・ 2019年12月21日




■前回の続きだが、建築物環境衛生管理技術者(以下はビル管)試験を受験する。
 難しくはないはずなのだが、勉強する上で立ちはだかる障壁がある。大きく言うと、出題範囲の広さと試験時間の長さの二つである。
 出題範囲は全部で七科目ある。だが、歴然と分かれていない。同じような法律が各科目範囲にまたがっている。また、これまで受験してきた資格で、もう忘れてもいいやと思っていた、「ボイラー」「危険物」「消防設備」「電気工事士」「冷凍機械」のいずれもが内容としては関係している。さらに「浄化槽管理者」「管工事施工管理技士」の試験問題とも重なっている。それでいて同じ用語でもニュアンスが違う。
 危険物における「常温」とは、二〇℃のことであり、これがボイラーでの「常温」となると、二五℃である。日本工業規格での「常温」は二〇プラスマイナス一五℃の範囲ということだ。ビル管の管理基準温度は一七~二八℃である。
 また燃焼の三要素は、「危険物」では、可燃物、酸化供給源(酸素供給体)、点火源の三つだが、「ボイラー」においては、燃料、空気(酸素)、温度(着火源)と微妙に違う。そして、消防設備においては、可燃物、酸素、温度(着火源)だ。また、自衛消防での三要素は、可燃性物質、酸素、熱源と、これも表現が違う。ビル管では、「火災の三要素」となっていて、可燃物の存在、酸素、点火エネルギーというわけだ。それぞれがイメージする具体的な形は違うはずである。
 また問題集のほとんどに間違い記述が平然と載っている。しかも既に解答が発表されている過去問題にさえもある。これは発展途上の資格ジャンルには付き物であるが、ビル管は成熟してきているにもかかわらず、内容の近いジャンルの杜撰さが悪影響を及ぼしていると思われる。杜撰な上に、法改正についていけてない参考書もある。
 たとえば「感染症と病原体」の問題は、ビル管において七科目のうちの二科目目「建築物の環境衛生」に該当する。鍼・灸・あんま・マッサージ師、医師・歯科医師、看護師、薬剤師の各国家試験でいうと、「臨床医学各論」や「疾病の成り立ちと回復の促進」「衛生」に該当する。
 かつては、語呂で覚えるネタで、感染症の二類は、以下のように覚えてきた。
 「急に最近コジれて超パラパラ」(=急性灰白髄炎、細菌性赤痢、コレラ、ジフテリア、腸チフス、パラチフス)。
 だが、これはかつてのもので、「細菌性赤痢」「コレラ」「ジフテリア」「腸チフス」は、現在は三類へと移動している。今の二類は、「鶏(二は鳥)中東で時差ポケ」(=鳥インフルエンザ、中東呼吸器症候群〔MERS〕、ジフテリア、SARS、ポリオ〔急性灰白髄炎〕、結核)と覚える。
 感染症と病原体の同じ問題を、医師、歯科医師以外の問題で解いてみたが、ビル管よりも簡単な印象だ。選択肢自体は、ほぼ四択で、かつ単独の語句か簡単な文章である。しかしビル管は、五択の上、選択肢の文章自体が長くて入り組んでいる。冷凍機械の問題に近い。冷凍は四択で、早い段階で二つに絞ることができる。
 法律が多岐にわたっているので、感染症の類別以外にも改正や変更は頻出する。
 空気環境の測定位置は、以前は居室中央部の床上「七五センチ以上一二〇センチ以下」の位置での測定とあったが、法改定により現在は「七五センチ以上一五〇センチ以下」となっている。一方、屋内空気中のホルムアルデヒドの濃度の測定点は、当該場所の中央付近の床上「五〇センチ以上一五〇センチ以下」の位置とあるのだが、過去一度も出題されてはいない。
 そして試験時間の長さである。看護師国家試験は、午前午後とも各一二〇問・一六〇分で、全二四〇問・計三二〇分の試験である。これを少し膨らませたような長期戦がビル管の試験だ。午前午後とも各九〇問・一八〇分で、全一八〇問・三六〇分である。
 看護師は、理容師、宅建士、冷凍機械などと同じく四択(四つの選択肢)だが、ビル管は、浄化槽管理士、技術士などの一部にみられる五択である。
 試験時間の最長は、医師国家試験二日目(三限最高は一六五分)と司法試験初日(三限最高一八〇分)の四二〇分だ。次に長いのが、ビル管が、ビル管のあとに目指すとされるエネルギー管理士(四限最高一一〇分)で三八〇分である。
 ビル管の三六〇分(二限とも一八〇分)はこれに次ぐ。看護師が一日三二〇分とはすでに紹介したが、社会保険労務士二九〇分、気象予報士二七〇分、不動産鑑定士二四〇分となっている。果たして一八〇分という時間を、五七歳という年齢で耐えうるのか、少なくとも、その時間分ぐらいは実際に試験に挑むのだから、耐えねばならぬ。
 だが、休日に三時間を目標に机に向かってみるものの、最初の三〇分で眠くなり、結局四月に勉強を始めて七月初めまでの三ヶ月間で、机に向かっていられたのが最長一時間であった。まずいことは分かっているが、疲れてしまう。
 小学校の一単位時間が四五分、中学高校で五〇分(学校教育法施行規則)で、大学の講義は九〇分だ。近年、明治大、立教大、中央大、上智大など一〇〇分に移行してきている大学もある。それでも一八〇分はない。
 一八〇分間集中する時間というのは、人生で初めてではないか。野球だって一八〇分の試合はあるが、選手は途中休憩できる。映画でも一八〇分の作品は、必ずインターミッションが付いている。連続しての一八〇分というのは前代未聞ではないか。しかも四五分の食事休憩のあと再び一八〇分試験とは、頭脳戦もあるが、やはり体力勝負だ。
 ほかに高額の受験費用も重荷だ。受験手数料のほか、振り込み手数料や貼付用証明写真、返信用切手及び簡易書留料金などがさらに必要で、お金のない者にとってはこれも負担だ。
 受験手数料のみで、医師と介護福祉士が一五三〇〇円、中小企業診断士が一四四〇〇円、不動産鑑定士が一二八〇〇円で、ビル管の一三九〇〇円はこの中間にあたる。司法試験の二八〇〇〇円や理容師の三〇〇〇〇円に比べると安いとも言えるが、資格の使い道を考えると、ボッタくり過ぎの気もする。試験対策以前に、手続きや参考書選びで疲れていく。
 現在一八〇分は未踏の地だが、到達せずに合格する秘策で臨むことにしている。本当に合格するのか。己の全てを賭けている。
 今は勉強ではなく、腹筋をしている。(建築物管理)







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