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評者◆伊達政保
日本も日本人も基本的に55年前と変わっていないことを示した――NHKスペシャル『東京ブラックホールⅡ‐‐破壊と創造の1964年』
No.3426 ・ 2019年12月07日




■東京の酷暑を理由に、オリンピックのマラソンと競歩を札幌で行うこととなり揉めていたが、そもそも安倍首相がプレゼンテーションで「温暖で最適な気候」と嘘を言ったことが原因じゃないのかね。詐欺と買収で招致した付けが回ってきたのだ。そんなオリンピックなど止めちまえばいい。
 そのごたごたが起こる直前に、あのNHKがNHKスペシャル『東京ブラックホールⅡ‐‐破壊と創造の1964年』という番組を放映した。前作の『戦後ゼロ年‐‐東京ブラックホール』は終戦直後の記録映像にタイムスリップした主人公を合成し、ドラマ仕立てで戦後の闇を描いた興味深い作品だった。今回は55年前のオリンピック1964年に焦点を合わせている。報道では政府の御用放送かと思わせるNHKだが、BSの番組やこのNHKスペシャルのスタッフはドキュメンタリーなどで頑張っているようだ。
 さて、夢と希望にあふれた1964年と言われるが、それは後の記憶であり実際はそんなもんじゃなかった。現在の外国人労働者が低賃金で働くオリンピック工事現場から、公害で汚れた都会のオリンピック工事現場に主人公はタイムスリップする。そこには農村からの出稼ぎ労働者が過酷な労働条件で何年も働いていた。一日に10件以上もの労災事故が起きており、下請け孫受けで何の保証もない。現在では出稼ぎの場所が農村から外国に変わっただけだ。発掘されたお倉入りの土本典昭のTVドキュメンタリー『日本発見 東京都』には、集団就職などにより東京は地方の人間の寄せ集めであることが写し出されていた。血を売って生活費の足しにする人も多くいた。
 当時の国家予算の三分の一の約一兆円がオリンピック関連事業に投じられ生活関連事業は後回し、企業は公共事業依存体質となって汚職も増えていった。当時の世論調査によれば、オリンピックに関心があると答えたのはわずか2%、より必要な場所に予算を使えとするのは60%となっていた。オリンピックのための町の浄化運動は、ゴミばかりか傷痍軍人、物乞い、青少年にも及んだ。現在のホームレス排除と同じだった。
 オリンピックでのメダル獲得のために、開催地特権で62年世界大会で日本が優勝した女子バレーボールを競技種目に新たに押し込み、世界大会に優勝して引退、結婚を表明していた彼女達には何千通もの「非国民」「裏切り者」という脅迫状が送りつけられ、彼女達を無理やり復帰させた。女子バレー金メダルは美談として伝えられこのことは忘れられているが、当時中学生のオイラでも彼女達はかわいそうだと思っていた。
 日本も日本人も基本的に55年前と変わっていないことをこの番組が示していた。







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