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評者◆秋竜山
言葉とはそんなもんだ、の巻
No.3418 ・ 2019年10月12日




■「やばい」という言葉がいいのか悪いのかしらないが、昔は女性が口にするなど聞いたことも見たこともなかった。今では、どっちかというと女性言葉のような感がしないでもない。テレビでは、女性たちがやたらと使っている。要するに女性タレントという分野である。やばいやばいを連発する。なにかにつけて「やばい」なのである。いいにつけて悪いにつけて「やばい」を口にする。口にする女性の顔を見ると、けっしてミリョク的ではなく、むしろ下品な顔つきになっているようにも思える。それを本人は知ってか知らないか、「やばい」なくして会話ができなくなっているようだ。「あのさァ、きのうさァ。やばいったらありゃァしなかった」「なにが、そんなにやばかったのよ。まったく話にならねえょ。アー、やばいやばい」と、二人の化粧美女が話し合っている。そーいう場にいる私も今ではなれっこになってしまっているようだ。あきらかに女性感が昔と今では違ってしまっている。「やばい女性たちだ」と、知らぬ間に自分も使っていたりする。大野晋『日本語練習帳』(岩波新書、本体七八〇円)では、
 〈人間は人の文章を読んで、文脈ごと言葉を覚えます。だから、多くの文例の記憶のある人は、「こんな言い方はしない」という判断ができます。よい行動をしていきたいと思う人は、よいことをした人の話を聞いて見習うでしょう。同じように、鋭い、よい言葉づかいをしたいと思う人は森鴎外、夏目漱石、谷崎潤一郎とか、現代だったら誰でしょうか。言葉に対してセンスが鋭い、いわゆる小説家・劇作家・詩人・歌人たち、あるいは適切な言葉を使って論文を書く学者。そういう人たちの作品・文章を多く読んで、文脈ごと言葉を覚えるのがよいのです。骨董の目利きになるためには、よい物を、まず一流品を見続けなければだめだといいます。二流品を見ていては眼がだめになる。文章もそれと同じです。〉(本書より)
 アジャパーと、いいたくなる自分である。アジャパーとは、昔の流行語で、それも大流行したものであった。
 〈ときには、「新しい言葉」をつくる人もいます。新しい言葉をつくろうと、現在は落語家や、漫才師、あるいはコピーライターがしのぎを削っています。戦後にアジャパーだとかトンデモハップンだとか、一時は流行する表現がつくられました。その大部分は一〇年もたずに消えました。それはつくられたものの底が浅かったのです。〉(本書より)
 今では流行語大賞というのがあって、一年間に流行した言葉に対して賞をあたえるといったものである。この賞の面白さは、流行語大賞に選ばれたその流行語を誰も知らなかったりするわけだ。選ばれた流行語も、選ばれたと同時に消えてしまうということもあったりする。アッという間にひろまったかと思うと、アッという間に消えてしまう。
 〈人の話す言葉のどれが正しいとするかは、なかなかむずかしいことです。それはどこに基準点をおくか、いつの時代、どこの言葉を規準とするかによります。〉(本書より)
 たとえば、古いかもしれないが、原節子や山本富士子といった天下の美女が「やばい!!」なんて、口にしたらどーなるでしょう。もしかすると、とってもミリョク的な言葉となってしまうかもしれない。言葉とはそんなもんだ、とはやばい。







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