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評者◆秋竜山
山水画を文章化するたのしさ、の巻
No.3415 ・ 2019年09月14日




■山水画を見て、「アレ? 漁師が描かれてない」と、思い、「そんなことはない」。そして端から端までを丹念に見ていくと、ポツンポツンと漁師の姿が画の中から浮かび上がってくる。それほどに山水画と漁師は切っても切れない関係にある。つまり、漁師の描かれていない山水画などありえないということだ。漁師は山水画における主役といっていいだろう。その主役が見えがくれに描かれてあるのはなぜだろうか。小さくポツンと描かれているからめだたないのである。どんな山水画にも漁師の扱いがそうであるのは、それなりの理由があるはずだ。試みとして、小さく描かれている漁師の姿形などを大きく描きなおしてみると、すぐわかる。画面全体のバランスが大きく狂ってしまう。山水画自体を駄目にしてしまう。その反対に、小さく小さくしていくと、小さくする程、風景が生き生きしてくる。それがナゼかということだ。小さく描かれている漁師の姿を虫メガネで眺めてみると、そこに描かれている漁師の姿や動きが伝わってくるということは、画家が手ぬきをしていないということだ。それよりも、かなり力を入れて描きこんでいるということがわかってくる。と、いうことは、山水画を見た時、ポツンと点のように描かれている漁師をよーく見つめてみることだ。それによって、その山水画の評価が定まるということだろう。宮崎法子『花鳥・山水画を読み解く――中国絵画の意味』(ちくま学芸文庫、本体一二〇〇円)では、そんな漁師のことが専門的に述べられていて面白い。と、同時に旅人が多く描かれている。
 〈旅人も漁師も、山水画としての世界を成り立たせるために、不可欠の要素であったと考えることができる。〉〈「早春図」の複雑な山水のなかには、多くの人々の姿が見え隠れしている。画面左下、川沿いの道を二人の人物が登っていく。笠を被り、荷物を背負う旅姿である。行脚僧の姿といわれている。その上のほうには岩陰から驢馬に乗って帽子を被った人物がのぞいている。これは「江行初雪図巻」や「秋江漁艇図巻」などに見えたような士人たちの姿であり、荷物を持った従者を連れて山道を登っていく。さらに上方、霧のなかをきつい斜面の道を登る人物たちの後ろ姿がかすんで見える。彼らは、この士人を先導する供の者たちかあるいは別のグループか、これらの山道を行く人物は、いずれも同じ場所を目指して歩みを進めている。〉(本書より)
 引用したら切りがない程面白い。この名文の表現力によって、そこに描かれている山水図が、パノラマのように頭の中に浮かび上がってくる。山水画を文章で表現していくと、画面が頭の中に浮かび上がってきて、画とは違った趣きがあってたのしいものである。
 〈一方、目を下の岸辺に転ずると、そこにはさらに数人の人物が描かれている。右側の岸には、舟が着き、棹を操る若い漁師と片づけるその父親と思われる漁師父子が、漁から帰ってきたところが描かれている。さらに、中央の巨大な岩をはさんで画面左側の岸にも、舟が着き、若い女性が天秤棒を担いで降り立ったところが描かれている〉(本書より)
 描かれている画像を文章化したり言葉にするということのたのしさを再認識したのであった。山水画の中に自分を歩かせてみるのもたのしいものである。







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