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評者◆添田馨
日本国憲法の肖像――改憲論の変容と護憲④
No.3415 ・ 2019年09月14日




■本当に問われるべきは、改憲の是非でも護憲の可否でもなく、国の在り方そのものなのだ。
 “護憲”とは何かしら硬直した思想なのではない。それは生き物である。2015年の国会前の「憲法守れ!」コールがそうだったように、“護憲”とは生きた思想であり、大衆感情のうねりであり、社会の有形無形の意志である。ましてや政治の不如意を取り除くために改竄されるべき典範でも、法制度上の重大な不備を普遍的に招来させている裏の戒律でもない。
 例えば、安全保障の問題は憲法問題ではなく、どこまでも政治の問題だ。政治的に解決すべき課題を、憲法問題にすり替えて為される“風と桶屋”の議論にも似た論説などを目にすると、思想のあまりの貧困ぶりに背筋が寒くなる。何でもかんでも憲法のせいにするのは、思考停止であって、右派だろうが左派だろうがそこは同じだ。内政面でも外交面でもなんの成果も上げられなかった政治家が、憲法改正にだけは異常な執念を示し続けるというグロテスクな構図が、この問題の本質をもっともよく映している。
 「軍事同盟というのは“血の同盟”です。日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流します。しかし、今の憲法解釈のもとでは、日本の自衛隊は、少なくともアメリカが攻撃されたときに血を流すことはないわけです」(安倍発言『この国を守る決意』2004より)。
 こうした片務的な関係は真の同盟関係ではない、共通の敵に対し双方が対等に血を流してこそ、双務的な本物の同盟関係が実現できる――発言の主はこう言いたいのだろう。しかし、架空の前提で安っぽい血の比喩など使ってほしくない。なぜなら日本国は世界戦争の敗北が建国の契機へと転化したネガティブな歴史を持つ。その原点には膨大な数の戦没者の“血の記憶”がある。日本国憲法はその記憶のうえに成立した。憲法条文の字面だけ変えてもその記憶は動かせない。それこそが護憲思想の石垣なのだ。
(つづく)







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