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評者◆秋竜山
昔のままの村、の巻
No.3414 ・ 2019年09月07日




■沖浦和光『旅芸人のいた風景――遍歴・流浪・渡世』(河出文庫、本体七四〇円)は、以前に取りあげさせていただいている。が、また。子供の頃(昭和二十年代)にも旅芸人のいた風景があった。私はぎりぎりに、その風景の中で少年時代をすごしたことになるのだと思っている。
 〈さてこの小論は、実際にこの目で見た「旅芸人」の回想記から始まる。おそらく昭和前期に生まれた私たちが、彼らの姿を実感した最後の世代だろう。〉(本書より)
 私が幸運だったのは昭和二十年代という日本の戦後の何のゴラクもない時、ゴラクにうえていた時代であったということとかさなり、旅芸人たちの最後の生きた時代であったかと思えるのである。昭和三十年代になるとプッツリ切れてしまうのである。つまり、昭和二十年代まで各村々に年中行事としての村の氏神さまのお祭りがあったということに深くかかわりあっていたのではなかろうか。村全体の風景が昔のままであった。神社があり、お寺があり、村中の道でも昼でも暗がりであり、大人でも怖いような雰囲気がいっぱいあった。昔のままといったらいいだろう。そんな中で生活していた。一年を通して、しょっちゅう様々な旅芸人たちが村へやってきた。ドサまわりの芝居一座などもあり、座員が十名にみたないものであった。お寺の本堂とか神社の境内などで興業を行った。
 〈私が小学校に入ったのは一九三三年である。その頃は、ちょっと奥に入ると近世さながらの農村風景がまだ残っていた。(略)諸国を流浪する僧体の遊行者、その日暮らしの遊芸民が、毎日のようにやってきた。行商人や渡り職人もよくやってきた。「鍋・釜の修繕」と声高に呼ばれる鋳掛屋、「傘・蝙蝠傘の修繕」と叫ぶ傘張り、それに竹細工売り・針売り・下駄直し・桶直しなどである。安物の呉服や洋服を入れた大きい風呂敷包みを背負って、一軒ごとに入ってくる行商人もよく見かけた。「ガマの膏売り」でよく知られた香具師も、街道沿いのちょっとした広場で居合い抜きなど得意の大道芸を披露して薬を売っていた。〉(本書より)
 昭和二十年代頃までは私の村へもやってきた。子供だった私は、面白がって追いかけたものであった。一番ビックリしたのは、村中の一軒一軒まわって歩く物ごいに、私の家の縁側にちょっと座らせてくださいといわれ、母が「どーぞ」と返事すると、しばらくするとそこから「チャリン、チャリン」と、いうような音が聞えてきた。障子の影からのぞいて見ていると、その物ごいが、なんと、各家々からもらってきた銭かんじょうをはじめたのであった。「いい、かせぎになるね」と、母親に小さい声でいうと、「シー」と、母にいわれた。
 温泉場の多い伊豆地方を流して歩く旅芸人の一座を描いた「伊豆の踊子」は、川端康成の名作である。私はその伊豆で生まれ育ったのであるが、時代が違ってはいるが、その「伊豆の踊子」という作品があまり好きにはなれなかった。小説、そして、映画化されたものもである。
 〈一高生の主人公は、湯ヶ野温泉で踊子の一行と同宿しようと思って、一緒に木賃宿に入った。だが、「ここは旦那様のような方の泊まる所ではありませんよ」と、踊子の兄が気を配ってくれて、(略)〉(本書より)
 このような身分とか差別的な場所がいたるところに出てくる。伊豆で生まれ育った私にとっては、時代が違うとはいえ、何とも不ゆかいな気分がしてくるのであった。







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