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評者◆小嵐九八郎
喋り語でしかできない発想、仰天さ――穂村弘著『水中翼船炎上中』(本体二三〇〇円、講談社)
No.3413 ・ 2019年08月31日




■自称歌人なので短歌総合誌の角川『短歌』、『短歌研究』は購読している。中には天皇の代替わりで“御製”“御歌”を連発して熱心なものもあり、敗戦前とちいーっとも変わってない文化の一つの文学なのかと身心の重みが削られてしまう。日本は君主制だったのか。
 歌集もかなり送られてきて、この一年で四十冊ばかり。その一冊も必ず、ぺらぺらとしても読むが、短歌というのは鑑賞するのにかなりエネルギーを要し、四十冊中三冊の表紙に付箋を貼っていて「再読」としたのを改めて読んだ。
 うーむ、既に、去年二〇一八年、若山牧水賞を貰っているというか、進呈したくてたまらなかった側の意を受けたというか、穂村弘さんの『水中翼船炎上中』(本体2300円、講談社)がやっぱり断トツ。取り上げるのが遅く、恥ずかしい。
 俵万智さんが現代口語というか普段語というか喋り語の開拓者とすると、穂村弘さんはそのほぼ完成者。《体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ》
 結句の恋人との距離、潔しさとふてぶてしさとその他の思いが見事そのものを歌っている。喋り語短歌の頂点かも。《サバンナの像のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいせつない》
 この歌は、俺の記憶なので誤りがあるかも知れないが、この「サバンナの象のうんこ」の発想の伸びやかさ、仰天さは、喋り語でしかできないと思えるし、下句の、けったるさの中での切実さは、若手の歌人を引き寄せたし、我ら老人も参るはず。
 今度の歌集で解らんちゃんの俺の思いを記す。《電車のなかでもセックスをせよ戦争へゆくのはきっと君たちだから》
 ま、次の戦争は無人のロケット、爆撃機の“活動”、死ぬのは火の海にて粉粉だとしても。《棺打つ石を探しに来たけれど見渡すかぎり貝殻ばかり》
 口語と文語の交わりが調和してきたか。
 ただ、昔、昔、宇野弘蔵、おっと、宇能鴻一郎という芥川賞作家がいて、純濃密恋愛小説を喋り語で書き、その後、小説界は喋り語を失っている。穂村弘さんの言語分析を期待しちまう。







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