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評者◆秋竜山
漫画みたいな黒船来港、の巻
No.3412 ・ 2019年08月17日




■歴史というものは、大誤解によって成り立っている、と思う。その時は、わからない。後になって、そーだったことが判明する。たとえば、ある時、あの驚きもそーだったと気づく。あの腰をぬかすほどの驚きだった。驚天動地。それも、大誤解がともなっていたことだった。もし、私が一〇〇年も早く生まれていたら、その現場で腰をぬかしていただろう。水戸計『教科書には載っていない 江戸の大誤解』(彩図社、本体六三〇円)では、
 〈嘉永6年6月(1853年7月)、ペリー提督が率いる4隻の艦隊が浦賀に来航。長い鎖国状態であった江戸幕府に開国を迫った。ここから、新たな時代が幕をあけることになる。〉(本書より)
 黒船来航であった。突然あらわれた黒船に人々は腰をぬかしたといっても大ゲサではなかったろう。私もそこにいたら生まれたばかりの赤ン坊であったとしても腰をぬかしていただろう。子供の頃、爺さん婆さんたちに、あの黒船で有名な話としての、うそか本当かは知らないが、なつかしそうに話されたことを聞いたことがあった。私は伊豆生まれであったから、黒船とは現場として縁がないことはない。伊豆の沖合いに黒船が姿をあらわしたのである。唐人お吉についての話にも、唐人お吉は、こーであったとか、お吉と一緒に働いていたとか、お吉の話をそのように話される人たちがいたのであった。
 〈たしかに黒船からの艦砲射撃の可能性も否定できなかったため、町火消が待機するなどの処置はとられたが、多くの庶民はもの珍しい“黒船”に興味津々であった。最初は江戸の人々も動揺したものの、ペリー艦隊が砲撃をする気配がないと悟ると、港まで出かけて見物をはじめる。〉(本書より)
 私が小学生の時の担任の先生にクラスで隣村へつれていかれ、「ここが、その場所である」と、海岸の海に向かって、斜めの広場を説明された。「ここが、沖の黒船にむけられた大砲が設置された場所だ」と、先生がいわれた。もちろん、そんな大砲などあるわけがない。沖のぶきみな黒船に向けられた、一種のおどしのようなものであった。ところが、その大砲とやらに、別の驚きの声をあげた。当時の人たち、いや日本人といっていいだろう。大砲たるや、なんとお寺の吊り鐘を大砲と思わせるように鐘の口を黒船にむけて横にならべたのであった。沖合いから見ると大砲に見えるだろうという考えによるものであった。漫画である。そのことを発想した人も、すごいが、それを大砲作戦として実行した人たちもすごい。黒船に、それを見て恐怖を感じさせるのが目的であるが、そんなことをやってのけた人たちも必死であったろうと思うと、笑えないのである。その笑えないのが歴史でもある。当然考えられるのは黒船から望遠鏡でのぞいて見ていただろう。そして、大砲と思えたものは一人もいなかっただろう。「アレは、ナンだ」と、吊り鐘というものを知らないものにとってはギモンでもあるが、それが自分たちにむけられているということも、何のためであるかわからない。それを大砲であるように見せかけているのがわかってもらえばシメタものであるが、かえって大笑いということになるだろう。
 黒船から笑い声が聞こえてくる。その笑い声が新しい日本のはじまりとして、今になってみれば笑えてくるのである。







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