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評者◆鴻農映二
【韓国】甦る悪夢――廉想渉の長編『驟雨』について
No.3411 ・ 2019年08月10日




■朝鮮文学研究者の白川豊氏(九州産業大学教授)が、廉想渉の長編『驟雨』の訳を出した(書肆侃侃房)。
 廉想渉は、隣国の二大文豪の一人(もう一人は李光沫。詳しくは波田野節子著『李光沫──韓国近代文学の祖と「親日」の烙印』中公新書)、白川氏は、その代表作三編を二〇年かけて日本語に移した。
 『驟雨』の翻訳は、四年以上かかったという。解説を含め四二七頁のこの本を、私は三日で読了した。
 翻訳は、印刷技術発生以前の「筆写」にも等しい。氏は、人生の殆どを廉想渉の研究と翻訳に費やした。朝鮮文学の場合、少しもぶれずに、初志を貫いた人は、かれ一人だけだ。『驟雨』は、朝鮮戦争勃発から、その年の暮れまでに、首都ソウルで起きた出来事を描いている。
 北朝鮮軍の支配下の緊張感とストレスが、自分の身に迫るような生々しさで伝わってくる。
 文在寅支持層の屈折した北朝鮮コンプレックスは、ここに淵源を持つのだが、その説明はともかく、いま、この作品に最もよく共感できるのは香港市民だろう。「いま、まさに自分たちの味わっている状況」「自分らがさらされている世界」以外のなにものでもない。
 米・中・日・韓・朝のトップが全員、示し合わせて、大状況を維持しているのか知れないが、守るべきは、個人の自由と人権だと思う。本書を読めば、それが、切実に実感できる。
 道を踏み外してはならない。







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