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評者◆羊男
デザイナーは様々な意匠のなかで多様性を示す者
古賀徹編、古賀徹・板東孝明・伊原久裕・山内泰・下村萌・シン・ヒーキョン・小林昭世・池田美奈子・藤崎圭一郎
デザインに哲学は必要か
No.3410 ・ 2019年08月03日




■「デザイン」という言葉は多様な使われ方をしています。「グラフィックデザイン」からはじまり、「プロダクトデザイン」「ソーシャルデザイン」「キャリアデザイン」「デザイナーズマンション」などなど、日常にデザインは溢れています。この本は、そもそも「デザイン」とは何であったかを、「デザインに哲学は必要か?」というテーマで、主に美術大学の先生たちが示した論考集です。
 デザインは技術を洗練させていくものであるが、それを使う私たちの考え方や生き方といった、哲学的な命題に即して発展してきたものだという流れで、各々の論考が進んでいく構成になっていると思います。
 哲学あるいは思想史そのものをなぞり、たとえば論理実証主義や機能主義とデザインの関係を追い、デザインによって利用者がいかに行動を変容させたか、といった問いかけ、そして技術によって発生する機能不全を技術によって解決してきた、といった工業化とシステム化が示されたりするのです。
 こうした流れで様々なデザインのかたちや歴史が語られていきます。興味深いのは、武蔵野美術大学で50年以上にわたって開講された授業「形態論」などが紹介されたりと、美術学校に通ったことのない人々にとっては、未知なことが様々な角度から語られていることだと思います。太陽残像を体験する授業では、残像現象に造形の始原があるという仮説から、ゲーテの「色彩論」へ向かい、さらにロジェ・カイヨワの縞模様の研究へ紡いでいくという、かたちの根源や人の感覚の根源に迫っていく授業はとても面白そうだと思います。こういった紹介だけでも、美術の門外漢には面白く読めると思います。
 また、例えば非常口などの絵記号であるピクトグラムを用いた視覚教育システムとしてのアイソタイプという具体的なものを扱う方法が、デザインの実践者であり、経済学者でもあったノイラートという学者の考え方として紹介されたりと、私たちの日常にあふれているデザインの起源にまで遡るあたりも知らなかったことばかりで、実は様々なデザインが哲学的なものに結びついていることに気づかされます。
 さらにデザインの現場が人類学の「野生の思考」と「栽培思考」で語られ、デザイナーや建築設計などの道具としてのデザインなどといった、実社会での有り様も語られていて、このくだりも興味深く読むことができます。
 終盤は専門的なバウハウスとウルム造形大学のデザイン専門教育や類比とレトリックといった異なるものを関係づける解釈や、編集のプロセスとデザインのプロセスを考察し、そうした文脈の可視化といった創造行為の思考の有り様に進んでいきます。そして最後は、ユクスキュルの「生物から見た世界」から援用された「環世界」という意味の世界と「オートポイエーシス」という自己創出の概念で締めくくられます。
 デザインという実は巨視的な領域についての、興味深い内容と難しい専門的な内容が同居した論考集ですが、読み終わって連想したのが、小林秀雄の「様々なる意匠」でした。意匠という言葉はデザインに通じており、この本で繰りひろげられる思考はどれも現実の基礎を成しているものばかりであり、小林秀雄の言葉を借りれば、「ただ一つの意匠をあまり信用し過ぎない為に、寧ろあらゆる意匠を信用しようと努めたに過ぎない」。
 おそらくデザイナーは哲学者ではなく、様々な意匠のなかで多様性を示す現実と対話をする人々なのだと思います。







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