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評者◆小嵐九八郎
滅びを前にしての切実な願い――島田雅彦著『人類最年長』(本体一八五〇円、文藝春秋)
No.3408 ・ 2019年07月20日




■今年の三月で、ある私大の芸術学部の講師をやめた。一四年間やっていたが年間の講座が十日ばかり増えたこともあるけど、どうもスマホの隆盛と共に歴史についての夢、例えば先の大戦とかを知らない学生が増え過ぎ、超安の月給よりは歴史に関わる小説を書いた方が著者にとっては大切だと判断した。
 もっとも俺だって陸に労働者の歴史や実情を知らずに「プロレタリア・人民解放」なんて叫んでいたし、物書きになってからは永井荷風の『〓東綺譚』の舞台である玉の井(たまのい)の裏街に哀愁を感じていたが、その実体を知ったのは紀田順一郎氏の『東京の下層社会』(ちくま学芸文庫)で一五年前だった。
 それで、最近出た島田雅彦さんの『人類最年長』(1850円、文藝春秋)を手に取った。帯文の“この男、百五十九歳。誰も信じない秘密がある”を見て、もしかしたら長寿の秘訣を教えてくれるかもと助兵衛ごころを抱いたのだ。
 読んでみると、まずは有り得ない長寿の秘訣はあのうそのうなのであるけれど、主人公の物ごころのつく明治時代の初期から、文明開化、日清・日露戦争、シベリア出兵、正史には出てこないエロ・グロ・ナンセンス時代、先の泥沼の戦争、敗戦直後の人人の暮らし、近頃までの近現代史がぎっしり詰まっている。それも、ここ重いと考えるが、市井の徒というか人の眼差しで、世界と日本との押し競べ、政治、社会、樋口一葉も出てくる文化、風俗、暮らしを、節目節目にかなりの活字と減り張りをつけて描いているのだ。とりわけ、いつも未来の担い手であり続ける子供達については、関東大震災の時の朝鮮人虐殺の、その朝鮮人の子供、敗戦直後の東京は上野あたりの“浮浪児”と静かな中で熱さが滾っている。匂いさえ、漂う。
 島田雅彦さんは、近年、『カタストロフ・マニア』、『絶望キャラメル』で、日本と日本人の滅びにぎりりと対峙していて、大老人の俺も唸っていたが、今度の小説は子供達、青年達に「歴史を知り、学ぼう」と滅びを前にしての切実な願いがある。あ、受験にも役立つ。







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