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評者◆伊達政保
戦災孤児と混血児に焦点を当てる――山崎洋子著『女たちのアンダーグラウンド――戦後横浜の光と闇』(亜紀書房・本体一八〇〇円)
No.3405 ・ 2019年06月29日




■20年前に出版された山崎洋子著『天使はブルースを歌う』(毎日新聞社)は、横浜出身のグループサウンズ「ザ・ゴールデン・カップス」メンバーの生い立ちを軸に、米軍占領下に生まれた混血児秘話、根岸外国人墓地に人知れず埋葬された900体以上の混血の嬰児たちなどを題材として横浜の戦後史の「闇」を掘り起こした、江戸川乱歩賞作家である著者の最初のノンフィクションであり名著であった。なんと20年後、その続編の山崎洋子著『女たちのアンダーグラウンド‐‐戦後横浜の光と闇』(亜紀書房)が出版され、同時に前著も同出版社から復刊されたのだ。これは快挙だ!
 今回の取材に当たり著者は前回と同様に横浜市役所健康福祉局(元衛生局)から取材拒否される。18年経っていても、さすが行政は執念深い。その理由は著者が横浜の過去の暗い歴史、横浜のイメージにふさわしくないと行政が考える歴史を掘り起こそうとしているからだろう。前著で著者は「戦後の横浜が横浜らしかったのは、朝鮮戦争、ベ卜ナム戦争の時期であり、米軍がいなくなってから、ただの地方都市となっていった」と言い切っている。
 さて本書は戦災孤児と混血児に焦点を当てている。横浜は幕末に開港すると同時に外国人相手の港崎遊郭も整備される。外国人との接点が増えれば子供も生まれる。父親が外国人の場合は外国籍として、父親に引き取らせ本国に送られた。しかし父親不明の混血児も数多く差別と偏見に晒された。関東大震災時の横浜では、朝鮮人、中国人、混血の人も襲撃されたという。
 敗戦直後、政府は「占領軍から善良な婦女子の貞操を護るため」に特殊慰安施設協会(RAA)という現在の500億円の予算で国家売春施設を設立する。横浜にも「互楽荘」があった。根岸外国人墓地に埋葬された混血の嬰児の殆どはこのころのことだったという。RAAをきっちり取り上げるとはさすがだ。また米軍との混血児GIべイビーに関して、聖母愛児園や有名なエリザベス・サンダース・ホームにも触れていく。
 高度経済成長期、混血児は「ハーフ」と呼び変えられていく。本書ではカシアス内藤、キャシー中島、竹田賢一などのインタビューを通して時代を明らかにしている。また、横浜華僑中国人、「在日」韓国・朝鮮人の問題にも踏み込んでいく。そればかりではない、沖縄米軍基地と「ハーフ」そして沖縄の現実にも触れていく。そして著者には、これからの外国人労働者と彼らの子供の課題が見えているように思われるのだ。
 最後に著者は黄金町浄化の「バイバイ作戦」やアートの町に違和感を示している。オイラから言わせりゃあんなの欺瞞でしかない。







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