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評者◆星落秋風五丈原
若手実力派作家たちの鋭い眼差し
ヒョンナムオッパへ――韓国フェミニズム小説集
チョ・ナムジュ他著、斎藤真理子訳
No.3398 ・ 2019年05月04日




■『82年生まれ、キム・ジヨン』の大ヒットを受けて編まれた短編集。7編のうち前3編が現実の話で後4編はSF風。
 韓国ドラマで女性が男性を「オッパ」と呼ぶのは恋人的意味合いもあると教えてもらった。韓国ドラマが日本に入ってきた時は、花がいっぱいに敷き詰められた場所でプロポーズされたり、出会って百日目に花束を贈られたりする韓国女性は、随分とロマンティックな恋愛を楽しんでいる! と中高年日本人女性がかなり羨んでいたのを覚えている。しかし、そういった男女のあり方は旧時代的でもある。日本女性が騒いでいた韓国ドラマも、実は昔ながらの男女の役割やら価値観をうまく浸透させるツールと考えると、思想教育みたいで恐ろしい。
 表題作も「オッパ」という親しみやすい呼びかけから始まるが、最初と最後では口調が全然違っている。語り手一人で一方的に語り続ける作品を飽きさせないというのはなかなか難しいが、さすがチョ・ナムジュさん、変化をつけてちゃんと最後まで引っ張っている。7篇中最も笑えて、キム・ジヨンで「うわぁぁ」となった人も心が晴れるのでは。
 「あなたの平和」は少し前「ショウコの微笑」評が新聞に載ったチェ・ウニョン作。弟の婚約者が家にやってきて迎える姉視点で、彼女が見ているのは主に母親。「自分が苦しんだ分、新世代が楽になるように」と順繰りに思えたら良いのだけれど、往々にして「自分が苦労したのだから相手もそうして当たり前よ」という考えに流れやすい。他人ならば批判的に見て精神的にも物理的にも離れられる。しかし、自分もそのDNAを持っている肉親だともやもやした思いを抱えてしまう。さて、日本読者(あえて女性、とは限定しませんよ)のみなさん、あなたのお母さんはどちらのタイプでしょう?
 「更年」はキム・イソル作。10年前は金槌で男の頭を割ってしまう女の作品を書いていたとか。今回は金槌は出てこないし頭割りもないのに頭が痛む。「更年」って何? という人も「期」を後ろにくっつければわかるのでは。息子が起こした問題で悩む母親視点で、彼女の視線の先にあるのは夫や息子。最も近くにいるのにモンスターのように家族の気持ちがわからない。分かり合えないイライラを解消できないままに、娘にある出来事が起こる。さて、この母親としては、娘といずれ分かり合えた方がいいのか。それとも自分みたいな思いはしない――つまり、今の気持ちはわかってもらわない方がいいのか――。
 他「すべてを元の位置へ」チェ・ジョンファ、「異邦人」ソン・ボミ、「ハルピュイアと祭りの夜」ク・ビョンモ、「火星の子」キム・ソンジュン収録。







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