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評者◆休蔵
衣服は時代性を反映する
シリーズ比較文化学への誘い4 文化が織りなす世界の装い
山田孝子・小磯千尋編
No.3393 ・ 2019年03月30日




■特別な場面で1着何百万円もする着物を着用することもあれば、何気ない日々には驚くほど求めやすいファストファッションに身を包む。
 装いは、時や場所の違いに応じて変えることが当たり前で、そのこと自体には疑いの余地がない。また、文化の相違が装いに強く反映することも自明のことだろう。むしろ、現代社会のように世界中の人たちが似たようなファッションを身にまとうことは、歴史的には特異な現象と言える。世界各地の文化を比較検討する比較文化学において、装いほど適した素材はないのかもしれない。
 本書は、その好敵手を相手取った比較文化学の実践報告で、3つの座談会記録と7本の論考から構成されている。
 人はなぜ装うのか。人が衣服を着用した時、地球は氷河期にあったという。寒冷した気候条件で生き抜くため、人は衣服に身を包んだというのだ。
 イアン・ギリアンは、現代人が安全に過ごせる最低気温はマイナス5℃と考え、たとえ先史時代人に適応能力があったとしても体感温度マイナス10℃が充分な衣服なしで過ごせる限界とした。つまり、人は氷河期を生き延びるため、衣服を身にまとうという戦術を採用したと考えられるそうだ。
 やがて装いはさまざまな意味を帯びるようになる。共通する制服でずらっと整列する光景が当たり前の日本の教育界。欧米から見ると相当に特異なものに映るはずだ。でも、日本人にとっては何の不思議もない。もっとも、私服を着用して通学する公立学校も相当に増えてきており、時代性を反映しているのかもしれない。
 そう、衣服は時代性を反映する。
 明治維新から150年がすでに経過したが、150年以上前には丁髷に和装が当たり前。武士なら刀を差して、その辺を闊歩していたはず。ペリーの来日は、髷を切り落とし、シャツとズボン、スカートを拡散させてしまった。太平洋戦争後は和装こそが特異な存在になった。今となっては、一人で和服を着ることすら困難になってしまった。
 このような事例は日本の専売特許ではなく、本書にはケニアのカンバ族の事例が写真付きで紹介されており、興味深い。
 最近、子どもの服装は大人の縮小版のようになってきたが、それでも子どもらしい服装というものもしっかり残っている。むしろ大人なのに“子どもっぽい”服装を好む人もいるし、それを着ることは、基本的には自由だ。
 衣服には性差も反映される傾向にある。男装の麗人など、そのことをダイレクトに示した表現だ。性別の問題は相当にデリケートで、政治家の失言が報道を賑わすが、いまだに衣服と性差の関連性は失われていない。
 それでも、日本の小学生を象徴付けるランドセルはかなりカラフルにはなっており、性別に決まりきった色をあてがう風潮も少しずつは薄れつつあるようだ。
 ファッションが景気にも大きく影響するようになった現代社会。来年はこれが流行るということが、公式に発表されて流布し、一般人が踊らされる構図は、もはや違和感なく受け入れられている気がする。
 それでも衣服には身を守ったり、自らの考え示したりする機能を持ち続けているはず。だからこそ、奇抜なデザインが他人に不快な思いをさせることがあり、それを発表したメーカーが謝罪することもある。
 毎年の流行りと、長く着続けられているスタイルのバランスを保つことは難しいようだが、個人的な考えや好みを重視した選択が正しいような気がした。ファストファッションに身を包みながらも、ほんの少しでも自分のこだわりを取り込みたいものだ。







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