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評者◆殿島三紀
唄と踊りでご縁がつながる――監督 中江裕司『盆唄』
No.3387 ・ 2019年02月16日




■『マイ・ジェネレーション/ロンドンをぶっとばせ!』『未来を乗り換えた男』『ヴィクトリア女王/最期の秘密』『バーニング劇場版』を観た。
 『マイ・ジェネレーション~』。デイヴィッド・バッティ監督。60年代を音楽とファッションでドキュメントした本作。マッカートニー、ミック・ジャガー、ツィギー等、60年代のカルチャーアイコンが大勢登場する。そんな時代へのタイムトリップのガイド役はマイケル・ケイン。自身も労働者階級出身の彼は「60年代は英国史において初めて若い労働者階級が声を上げた時代」と言いきる。年配者には懐かしく、若い世代には新鮮な作品だ。
 『未来を乗り換えた男』。1942年、ドイツ人作家アンナ・ゼーガースが亡命先のマルセイユで執筆した小説「トランジット」。それを現代に置き換えて映画化したのはクリスティアン・ペッツォルト監督。戦時中のユダヤ人の悲劇と、祖国を追われた難民の問題が深刻化するヨーロッパの今とを重ね合わせた。70数年前の史実を現代に置き換えているので、頭の切り替えが難しいが……。
 『ヴィクトリア女王~』。スティーヴン・フリアーズ監督。太陽が沈むことのない帝国といわれた大英帝国の最盛期に63年間君臨したヴィクトリア女王。その即位50周年記念式典に英国領インドからハンサムな青年がやってきた。2010年に発表された女王と青年との関係に迫ったシュラバニ・バスの原作に基づいた映画だ。
 『バーニング』。イ・チャンドン監督作品。村上春樹の「納屋を焼く」(83)を大胆にアレンジした本作。冬枯れた韓国の農村、ソウルの高級住宅地、人々が行きかう繁華街。現代の韓国を生きる3人の若者たちをミステリアスに描き出した。原作は一旦忘れ、イ・チャンドンが作り出した世界に浸って頂きたい。さすが韓国の名匠である。
 さて、今回紹介するのは『盆唄』。『ナビィの恋』『ホテル・ハイビスカス』の中江裕司監督の最新作だ。中江監督で連想するのは沖縄だが、今回はハワイと福島を舞台にしたドキュメンタリー映画である。ハワイと福島にどんな関係があるかというと、まさにそこがミソ。『盆唄』という心浮き立つようなタイトルながら、原発事故、そして、100年以上昔のハワイ移民の苦難の歴史と結びついた作品なのだ。
 東日本大震災後の原発事故による長引く避難で、存続の危機にある福島県双葉町伝統の盆唄。2015年、東日本大震災から4年経過した後も、双葉町の町民は幼なじみもご近所さんもみんな散り散りになったまま避難先での生活を送っている。盆唄はこのまま消えてしまうのか。町民たちの胸に去来する寂しさ。ところが、100年以上も前に福島からハワイへ移住した人々の伝えた唄と踊りがフクシマオンド、ボンダンスとしてマウイで唄い継がれ、踊り継がれていた。そこから、この映画作りが幕を開け、町民たちに希望が生まれた。
 3年もの時間をかけて双葉町やハワイの人々に取材し、撮影された本作。もはや住むことの叶わないかつての自宅の前でインタビューに応える町民の傍らをイノシシが走る。震災後しばらくは逃げ出したダチョウも歩き回っていたという。原野と化した故郷。荒廃の色は拭い難い。一方、マウイの日系人たちは夏になると100年以上前から伝わるボンダンスを櫓の周りで踊る。2016年夏、双葉町民はフクシマオンドを聞き、ボンダンスを見るためにハワイへ飛んだ。
 『盆唄』は故郷と断ち切られた人々の映画である。双葉町民は原発事故によって、ハワイ日系人たちは移民となって――。しかし、両者とも唄や踊りで故郷とつながる。見えないご縁でつながる。ラスト。闇の中ぼんぼりに照らされた櫓の上で唄い、笛を吹き、震災後初めて地区の人が集まった盆踊りが開かれた。悲しみと希望が渾然する幻想的なシーン。
(フリーライター)







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