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評者◆かもめ通信
過去と現代の両方をつないでいる不思議な縁
両方になる
アリ・スミス著、木原善彦訳
No.3381 ・ 2019年01月01日




■おぼろげな記憶をたぐり寄せ自分が画家であったことを思い出した「私」は自分の絵が1枚しか飾られていない部屋にコズメの絵が4枚も飾られていることを嘆いていたがその場に足を止めた一人の少年が魅入っているのは他ならぬ自分の絵ではないかと自らを励ます。
 けれども少年に声をかけてもその耳には届かずどうやら彼には自分のことが見えもしないらしいと気づく。そもそも自分はいったいなぜここに? 自分の終わりがまったく思い出せないのだから、ひょっとして自分は死んでいないのかも? 自分の状態に疑問を抱きながらも「私」は自らの人生を振り返る。
 母の死をきっかけに幼い「私」は父と共に一つの選択をする。これよりはフランチェスコと名乗りその才能を生かす道を歩むのだ。生涯、胸に布を巻いて画家になるのだ。なぜって芸術家になるには男である必要があるのだから。
 なるほどそれが「両方になる」という意味か。そう合点して読み進めるも、読み手はやがてそれが早とちりだと思い知らされることになる。
 物語は二つのパートにわかれ一方ではルネサンス期のイタリア人画家フランチェスコ・デル・コッサの物語がもう一方では現代イギリスに生きる少女の物語が描かれている。両方の物語に共通するのは二人の主人公がそれぞれ愛する母を亡くしていること。一方は絵に、一方は言葉に、強いこだわりと才能を持っていること。過去と現代の両方をつないでいる不思議な縁。
様々な「両方」を頭の隅で考えながらも文字が鮮やかに描き出す絵画に読み惚れ韻や時制や綴りに含まれているのであろう様々な言葉遊びがいかに翻訳されるか(あるいはされえないか)に思いをめぐらす。
 数日間どっぷりはまって読みふける非常に興味深い読書体験だった。
 だがしかし、なんといってもこの作品の一番の注目点は著者がその仕掛けについては訳者解説など「本の中に絶対に書かないで欲しい」と注文をつけた部分にあるものと思われる。そこに触れずにレビューを書くことは、非常に難しい。とはいえ、やはり、これから読もうという方のために、ここは口を閉じておくことにしよう。
 この本を読み終えた読者だけが語ることのできるあれこれを誰かと語り合える日を心待ちにしながら。







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