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評者◆小嵐九八郎
漫画では味わえない魅力
絶望キャラメル
島田雅彦
No.3377 ・ 2018年12月01日




■ある小説の本を捲りだしたら、カラーの漫画から始まっていて、へえ。キャラクターの紹介をしてある。次に本文である小説を読み進めると、漫画よりまるで人物が生きていて、やっぱり画よりも文章だなあと思った。俺も四十二歳で作家になってから酒のウンチクもののゴースト原作とか筆名の出るのを、貧乏なんで二十数年間やっていたが、だいたい原作より漫画の方が面白いと感じ入っていた。だから、例外なのかなとも感じた。
 例外なのは当たり前、この作家は芥川賞を案外に解らんちゃんだった開高健に妨害されてとれなかったけど、実の力で選考委員になっちまった島田雅彦さんで、本のタイトルは『絶望キャラメル』(本体1600円、河出書房新社)だ。
 中身も、今の日本の、これからの日本の典型的地方の中小都市の滅びへの抗いを描いていて、まず、背筋をしゃきっとさせてしまう。当方の故郷の秋田の外れの町も、白神ネギとかミョーガとかで健闘しているけれど、若者は東京や仙台に出て行くし、人口減と消滅に脅えるしかなくなっている。景観や漁業のこれからを無視して、大資本の反原発の心情に乗って海上風力発電などが計画されると飛びつくしかない。
 ま、レーニン的組織論はちょっぴり気になるのだけど、その滅びの町へ挫折経験豊かな、やや若い僧侶がやってきて、野球・アイドル・科学者・スカウト役兼秘書兼小説家の卵を発掘し育てる。いかにも漫画的素材と映るが、各分野のこまめなる取材と深い洞察、文のリズムは漫画では味わえない魅力を持って歩きだし、走る。
 うへーい、自らと推測されるH大の文学の教授が出てきたり、ちょろりと村上春樹さんとしか思えぬ“文豪”を「六十過ぎても、相変わらずイカ臭いファンタジーを書いている」と皮肉っている。もっとも、皮肉は至極真っ当。
 島田雅彦さんは前作『カタストロフ・マニア』を含め、日本、人類の大破局と滅びをテーマとして明確に見据えているらしい。小説の読者が減ろうとも、この志は不滅であろう。







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