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評者◆ベイベー関根
21世紀を生き抜くための野心的な2冊。
死都調布
斎藤潤一郎
電話・睡眠・音楽
川勝徳重
No.3374 ・ 2018年11月10日




■こないだちょっと立て続けにマンガを買ったら、それがみんなリイド社の本だったんで、ゲーッと思ったぜ。なんだよ、なんか「良心的なマンガファン」みたいじゃん! そんなわけで今回はリイド社まつりだ、覚えとけ! といっても、2冊に絞っとくけどな。
 1冊目は、その「覚えとけ」文体で今をときめく斎藤潤一郎『死都調布』だ。
 まず、『死都調布』ってタイトルの言語感覚が尋常じゃない。こんな文字列見たことないよ! そして、カバー表1に著者の名前がない! そんなもんどうでもいい! というパンク精神の表れか!?
 まあ、そういう精神だかなんだかわからんが、中身を覗くと、さらにまたなんだかわけがわからんのだ! 都会の夜の路地裏に迷い込んだあげく、夢の落とし穴にスコーンと落っこちたような、そんな迷作、いや名作を詰め込んだ連作短編集が本書にほかならぬ!
 最初の「指」からしてこんな話だ。
 川べりを歩くふたりの男。片方の男の右手は、指が5本とも途中からスッパリ切り落とされている。もうひとりのスーツ姿の男は、なんとかしてやろうと彼を連れて怪しげなチャイナタウンに入り込む。路上の弁髪男が「虎穴」と書かれた箱の穴に手を入れろというので、スーツの男は穴の中に右手を入れるが、そのとたん彼の指も一刀のもとに切り落とされてしまう。怪しげな男が放り出した切れたばかりの指の切れ端をもって、スーツ男は医者に駆け込むが、女医はけんもほろろ。逆恨みしたスーツ男は女医の後を追い、彼女のマンションにたどり着く……。
 と、もう何がなんだか状態。しかし、本書に描かれる世界ではこれが妙に説得力あるんだなー。粗っぽいタッチ、ハードボイルドな倫理、そしてシュルレアリスティックなストーリーテリング。調布に行ってみろ、そこではギャングになった影たちが今やと出発を待っている! という感じ。とにかくこの『架空』が生んだ超強力新人を読まねえやつぁ、モグリだぜ!
 もう1冊は、前にこの連載でも紹介した超新星・川勝徳重の短編集、『電話・睡眠・音楽』。なんと朝日新聞でも紹介済みだ!
 今回の本は、「二十代漫画作品集」と銘打たれていて、貸本テイストから安部慎一的アプローチを経て、さらにはマンガでヌーヴェルヴァーグに挑戦したようなものまで、いろいろな作品が詰まっている。雑多な印象になっても不思議はなさそうだが、過去の作品の単なるサンプル+コラージュにとどまらず、マンガで世界(と自分)をどう捉えるかという問題意識に貫かれているので、読みごたえしか感じねーぜ!
 マンガ本でこんなところをホメるのも何だけど、単行本化にあたって付された「著者解題」がまた全人類必読の名文だ! 創作に関心のある人間はこれを読まなくちゃ21世紀を生き抜いていけないよ! はっ、そういやこの本もカバー表1に著者名がない!







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