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評者◆wm
木村政彦と柔道・格闘技に対する熱い思い
木村政彦 外伝
増田俊也
No.3373 ・ 2018年11月03日




■外伝というからには正伝がある。その正伝にあたるのが『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(以下、『なぜ~』)であるが、なぜそのセンセーショナルなタイトルでなければなかったのかが本書では様々な識者との対談を通じて著者より語られる。
 著者は猪瀬直樹が記した一文から受けた衝撃を契機に『なぜ~』に結実する文章を書き始めた。

猪瀬 なんで木村政彦は生きたのか? 僕が質問に行けたってことです。つまり、検証できた。

『なぜ~』に対するある種の回答であろう。おそらく何年か後には“なぜ増田俊哉は『なぜ~』を書けたのか?”といった検証がでてくるのであろう(本稿の趣旨からはズレてしまうが、この発言は2012年のもの。のちの都知事辞任へつながる経緯を考えると因果というものに対して考えざるを得ない)。

平野啓一郎 この本に書かれている柔道の話は確かにマニアックですけれど、そこに書かれている歴史と、多くの人が信じている歴史のギャップはいったい何なのか。でも、それは“書き換える”チャンスがあるんだというのが、この本を読んで僕が感動したことのひとつですね。(P.386)

 昨今の“歴史修正主義”の跋扈を思うとこの「書き換えられる」という言い方はナイーヴすぎるかもしれない。が、作家という物を語る平野としては語り継ぐことの尊さに触れて感動したのだろう。著者の執拗ともいえる調査・取材は修正主義といったものとは無縁であるし、かの力道山戦は勝っていたのではという思いで書き進めていくうちにやはり負けたのだという事実に直面していく様が何より「語り継ぐ」ことの尊さを表している。

人間が生き続ける意味と言うか、単なる柔道やプロレスの話だけじゃなくて、人間の存在意義、生き様、死にざまがたくさん出てくる。そこに触れたかった。(P.471)

『なぜ~』にしても本書『木村政彦 外伝』にしても評者のような柔道・格闘技全般に通じてない者の心をも打つのはここだろう。木村政彦は力道山を殺さなかったし、自ら死を選ぶこともなかった。生き抜いた、生き切った。あるいは(猪瀬直樹のいうように)検証されることを待っていたのかもしれない。
『なぜ~』も700頁を超す厚く重たい一冊だったが、背負い投げをズシンと決められたかのような衝撃で、柔道・格闘技の心得のない評者のような人間をも一気に読ませる黒帯級のノンフィクションであった。本書も同様のページ数、重量級の面白さで惹きつけるが、様々な対談が収まっているので、さながら乱捕り稽古のようである。







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