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評者◆ベイベー関根
手もと、足もと、ちょっと向こう。
むかしこっぷり
おくやまゆか
No.3372 ・ 2018年10月27日




■おくやまゆかは面白いなあ。『むかしこっぷり』なんか、もう傑作っしょ。
 作者の身近な人に聞いた思い出深いお話をマンガにした連作集なんだけど、どれも心に残る作品ばかり。いっちゃあ昔話だから、舞台はみんなちょっと前の日本で、マンガ(商品)にするからということもあるのかもしれないけど、ちょっと不思議率高めかな。
 たとえば、「善光寺のはなし」は(不思議系の話じゃないけど)こんな感じ。
 戦争が始まったころ、マユコ(作者の義母)は家の裏に住む山田のおばちゃん(ちなみに聾唖)のところによく遊びに行っていた。おばちゃんと一緒に一家で善光寺参りをすることになり、「お戒壇巡り」では、実のおばあちゃんと手をつなぎながらも真っ暗な中を歩かされることになる。入る直前、おじいちゃんにいわれた「悪い人は戻ってこれないって言うで」ということばが耳に残って不安な気持ちになりながら、なんとか暗闇を抜けて、出口へ。しかし、ホッとする間もなく、山田のおばちゃんがいないことが判明! 迷ったのかと大騒ぎする一同をよそに、マユコは別の不安に捉われていた……。
 絵はね、なんか高野文子フォロワーっぽいんだけど、某作家みたいにムカつく感じがしないのは、やっぱり自分なりのアプローチをしっかりもっているせいだろうな。
 この作品の場合、単なる思い出話やイイ話や感傷(さらにいうと、よくある懐かし話やあるある話)に陥らないようにすっごい気をつけてると思うのね。作者にいわせると「生の感触」。しかも、自分のものでもないそれをどうやって読者に伝えるか?
 その秘密は、ディテール、というよりもその質感の演出にある気がするな。手もと、足もと、ちょっと向こう。両手に挟んだお茶のぬくもりとか茶碗のたっぷりした感じ、足もとにうごめくアリの輝き、夢の中のお堀……。音の仕掛けもあって、風でページがめくれる音と、ポプラの葉ずれの音が重ね合わされる、なんてとこ、実にけっこう!
 こうした質感が読者の側の記憶へ通じるカギとして、うまく使われてる。でまた、それがいわゆる絵のうまさに必ずしもよってないのも面白いところだなー。料理マンガとかだと、食べ物のおいしさを描写でなんとかしようとする(そして結局は、擬音とかその後のコマに来る人物の表情とかがあってようやく成立する)けど、そこもシンプルに行っちゃえるっての、けっこう発見だったなあ。もとより質感の描写そのものが狙いじゃなくて、その質感と記憶の結びつきを示すのが大事だっていうことを作者自身がよくわかってるからだと思う。
 しかし、質感っていうのは不思議だよな。だいたい、人間の目とか耳がそういうものをキャッチできるっていうのがそもそも不思議さね。だいたいそれがないと、われわれにはものと背景の区別もできないし、奥行きも運動も何もわかんないんだからね!







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