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評者◆伊達政保
子供にあたる世代から出現した、これぞ平岡正明論である
平岡正明論
大谷能生
No.3366 ・ 2018年09月08日
■平岡正明氏が亡くなって9年。すばらしい大谷能生著『平岡正明論』(P-VINE )が登場した。平岡正明と言えば、60年代から2000年代を時代と共に疾走したイデオローグであり批評家だった。そのジャンルも、犯罪と革命と暴力、ジャズと第三世界、汎アジア大の戦争と革命、歌謡曲から新内そして浪曲・落語などの語り物、世界の大衆音楽を包摂した「平民芸術」と多岐にわたっているが、一貫してあるのは大衆の蜂起による革命論だった。
70年代より平岡氏(やはり「さん」付けで呼ばしてもらおう)の文章を読み、それらを行動指針として平岡さんと共に活勤してきたオイラには、平岡正明論は必要ではなく平岡さんの本その物があればよかったのだ。しかし百二十冊以上ある著作のほとんどが絶版となっており、個別ジャンルにおいての平岡さんに関わる論考、とりわけ文化論について少しは散見するも、卜ータルな「政治と文化」に対する活動が忘れ去られてしまうような危機感があった。しかし、平岡さんの子供にあたる世代からこうした本が出現したのだ。 著者の大谷氏はジャズ・ミュージシャンであり批評家。菊地成孔(ミュージシャン)との共著『東京大学のアルバ一ト・アイラー‐‐東大ジャズ講義録』(文春文庫)や瀬川昌久氏(ジャズ評論家の大御所)との対談『日本ジャズの誕生』(青土社)などで馴染みの論客だ。また渋さ知らズ・オーケス卜ラにもアルト・サックス奏者としてゲス卜出演している。彼は本書の「前書」で次のように書いている。「彼の活勤は、つねに民衆から発生する力とともにあった。その力は、一方では歌謡曲や落語といった芸能を形成する方向に向かい、もう一方では、暴動・蜂起・犯罪といった国家を相手に繰り広げられる暴力のかたちをとる。このふたつはどちらも、民衆が生み出す「文化」なのである」。ウァーまるで平岡節だ。この本は平岡さん自身が請談調で平岡正明論を語っているみたいな感じなのだ。 「平岡正明の姶まりは60年安保闘争の敗北である」との書き出しから、安保ブンド(共産主義者同盟)の分析、黒人ジャズから第三世界論ヘ、この辺までなら黒人音楽を通して思想形成をしてきた大谷氏らしい。しかし平岡さんの思想形成を知るためにマルクス&エンゲルス/ブルジョア革命と資本主義、レーニン&トロツキー/帝国主義と永久革命、ブンドによる日本戦後過程の分析、にまで踏み込んでいくのだ。そして、汎アジア革命からディスクジョッキー、「全冷中」、山口百恵とひばり、落語論ヘと至る36段に加えてマチャアキズム・テーゼ36発、著作案内36冊と盛り沢山。これぞ平岡正明論である。 |
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