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評者◆小嵐九八郎
例証し、分析し、純情な心で怒る
日本の気配
武田砂鉄
No.3357 ・ 2018年06月30日




■現代日本の瑣末主義というか、超管理主義というか、非寛容で反対意見や異端やミスを許さない風潮には、大老人となって感性が鈍くなっている俺なのに、かなり参る。若い頃に学生運動の延長戦で刑務所に入ったけど、ほぼそこに近い。そこでは、房内のカレンダーに入所した日を五ミリぐらいの円で印したら五日間の懲罰、映画会で看守に「スクリーンに礼っ」と号令をかけられ、クリスチャンやイスラムの信者ではないので偶像崇拝とは言わないけれど、号令を無視したら懲罰七日ほどだった。
 今の今、住まいの川崎では野宿者を許さないらしく「ここに長時間徘徊するな」の看板が駅前の散歩コースにあり、公園のベンチは仕切り板が半分のところに打ちつけて野宿者が長まることができないようにしている。
 寝るところもない人人にこの仕打ちはと暗い気分になって老人仲間に話すと「そうだよな」と解り合えるが、バイト先の学生や中年の人と話すと「自己責任」の言葉しか返ってこなくて寂寥感に襲われる。そんなところで出会ったのが武田砂鉄さんの『日本の気配』(本体1600円、晶文社)だ。『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)でドゥマゴ文学賞を貰っている人だ。こんなことを書くと武田砂鉄さんは迷惑だろうが、たぶん三十六歳のこの人の感性に当方は癒された。久し振りのことだ。
 ここの「気配」は「空気」を読むための前段階で、今や、この「気配」から、政治・メディア・個個人のコミュニケーションまで管理が進んでいるとして、具さに武田砂鉄さんは例証し、原因を分析し、純情な心で怒っている。例えば「ヘイトの萌芽」、国策のオリンピック推進で具体的に困っている人人についての「予測された混迷――ただ解体が進んだ国立競技場」。こういうのもある「鼻くそを自由にほじれない社会」、「マイナンバーを提供しません」。コミュニケーションの能力減退をスマホとパソコン漬けによる直の、生の人と人の交わりを遮断と考えていた当方は、むしろ前提としてその「能力」について考えている点でかなり反省させられた。







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