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評者◆クロニスタ
まさかここまで人の心に踏み込んでくる絵とは
囚人番号432 マリアン・コウォジェイ画集――アウシュヴィッツからの生還
マリアン・コウォジェイ画・文、中丸弘子、グリンバーグ治子編
No.3345 ・ 2018年03月31日




■一度開いて、眺めてみたけれど、二度三度とは眺めてみる気にはとてもなれなかった。もちろん献本でいただいた本なので書評を書くために何度か開いたのだが、衝撃が強すぎて、できればもう見たくない。
 なにが衝撃的かというと「視線」だ。
 無表情で、ほとんど個人差もない画一的な囚人たちが、こちらを凝視する見開かれた目が、とても怖い。描かれた背景を知ると、果たして使っていい言葉なのか迷うが、見る側にものすごい嫌悪感をもたらすのだ。
 お前も同罪だ! と告発されているような気にさせられる。
 献本に応募した時は、表紙の画像をみて、雰囲気がどことなく自分の好きなメキシコの画家ポサダのカラベラ画に似てたので興味をもったのだが、まさかここまで人の心に踏み込んでくる絵とは思ってもみなかった。
 絵の中の人物がこちらに視線を向けてくる手法は、見る側を絵の中の世界に引き込む効果をもたらすのだが、ひとりだけではなく無数の囚人がこちらを凝視しているので、恐怖心しか湧かない。大勢の視線にさらされて、お前は善良な人間だと俺たちの前で言えるのか、と裁かれている気分になる。
 虚ろな顔で、意思があるようにも見えない。目だけが命を持ちえているようだ。誰かを思い起こして描いているようには見えない。「死」というもののイコンなのだろうか。
 美術ではない。これは記憶だ。
おそらく絵と同じ構図で、当時の囚人の写真を見てもこんな気持ちにさせられることはないように思う。
 アウシュビッツのなかで囚人たちが感じた憎悪や絶望を、安穏に暮らしている現代人が想像しようなんてことは、いくら資料を読んだって、映像を見たところで、どだい無理なのだ。
 お願いだから、そちらの世界に引き込まないでください。わたしはそちらに行きたくありません。
 悲劇を繰り返さないための道筋の出発点は、そんな人としての当たり前の感情から生まれてくるのかもしれないと思う。







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