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評者◆小嵐九八郎
「あ、ここ」でぎらりと押し寄せる
No.3345 ・ 2018年03月31日




■時代小説と歴史小説は違うらしい。前者は江戸時代以前に設定を置いてどちらかと言うと事実にとらわれずに娯楽的、後者は歴史的事実を重んじて“真面目”とゆうのが事典などに解説してある。いずれにしても、俺は、古代中国の荘子やキリスト教の始祖についてを含め、時代ものは八冊しか出していない。
 なぜ時代ものを書くかの理由は当たり前、生活のためである。同じぐらいの強さで、飢餓や流行り病や災害で人人の生が死と隣り合わせであり、文字通り必死に生きていて、そのぶん、命が輝いていたことに。政治や社会の不条理を意識していたかどうかは不明だが、このテーマもかなり重い。現代人に歴史の凄みを伝えたい図図しい欲もある。そもそも、時代時代のモラル、男と女のこと、風俗、食をもっと勉強したい好奇心がある。
 それより、大先達の書いた時代ものを読むのが好きだ。中里介山、吉川英治、山本周五郎は学生運動の真っ最中も鶴田浩二、健さんの任侠映画と共に愛した。あ、芥川龍之介の『地獄変』の壮絶さを知ったのは六十代後半の時だったけど仰天した。今は飯島和一さんを畏怖している。読む面白さは、書く理由と重なるが、やはり生死の狭間で懸命に生きる人人に出会えること、虚構のスケールが大きいことか。
 そんな中で書店で並んでいた一冊の帯に「デビュー作にして珠玉」「確固たる文体の勝利」と文芸評論家の縄田一男さんの言葉が記してあり、買ってしまった。
 それは砂原浩太朗さんの『いのちがけ――加賀百万石の礎』(本体一七五〇円、講談社)だ。なるほど縄田さんが誉めるように文体の力はかなり。淡淡としている中、「あ、ここ」でぎらりと押し寄せる。その上、久しぶりに正統武家言葉に向かうことができた。戦の場面も、戦争経験者ではないかと邪推するほど(有り得ぬ、一九六九年生まれの砂原さんだ)心理面が描写され、刃や鉄砲の筒が“合う”のである。最もの不条理と当方に映る“主従”関係も「ここまで書けばなあ」属伏させてくる。数多くの兵卒、信長、秀吉、三成、家康等の顔と躯が目の前にぬっと現われるみたいなのだ。「次作も読みたいっ」と近頃は珍しい新人の力技で参りました。







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