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評者◆ベイベー関根
「故郷って、何だろう?」
マッドジャーマンズ――ドイツ移民物語
ビルギット・ヴァイエ著、山口侑紀訳
No.3338 ・ 2018年02月10日




■ジョゼ・アントニオ・ムガンデは、モザンビークから東ベルリンにやってきた18歳の出稼ぎ労働者。「ジョゼ」では発音できないというので、彼は「トニ」と呼ばれることに。なりたい職業は教師だが、さしあたりの仕事は線路工事。給料のうちの60%が天引きされるのはキツいけれど、帰国するときにはまとめて戻ってくるはず。ルームメイトのバジリオは遊び好きで、よく部屋を留守にする。内気なトニはもっと勉強がしたくなり、図書館や映画館に通い始める。
 その後、アナベラというGFができ、トニの生活はバラ色に輝く。政治的な意見は合わないけれど、そんなのは些細なことだ。しかし、トニはバジリオとアナベラに裏切られてしまい、傷心のうちに地方への転勤を願い出る。さらに東西ドイツが統一されると状況は大きく変わり、トニはモザンビークへ戻ることに。
 しかし、故郷へ戻ったトニを待っていたのは、家族のほとんどが内戦で殺されていたという事実と、天引きされた分の給料が戻ってこないという国の裏切り、そして周囲の人々からの誤解と敵意だった……。
 今回取り上げるのは前回に続いて海外モノ、だけどちょいと硬派だぜ! 作者はビルギット・ヴァイエ、タイトルは『マッドジャーマン――ドイツ移民物語』。「マッドジャーマンズ」といっても、「狂ったドイツ人」じゃなくて「ドイツ製」という意味だ。
 著者はドイツ人だけれど、幼少のころからウガンダ、ケニア、モザンビークと移り住んだので、ハンブルクよりもアフリカの街の方に懐かしさを覚えるくらい。彼女は「マッドジャーマンズ」と呼ばれる元移民たちへの取材を始め、膨大なインタヴューを、3人の架空の人物に結晶させた。そのうちのひとりが、今紹介したトニことジョゼだ。この話の中に出てくるバジリオやアナベラの人生もそれぞれに紆余曲折があり、彼ら3人の関係も、トニの目から見ただけではない広がりをもってくる。
 そして、通奏低音のように繰り返される問い――「故郷って何だろう?」
 3人それぞれに、美しい思い出や、不幸な出来事、政治的な立場、人種差別の経験がある一方、彼らの境遇をまとめてねじ曲げてしまうような事件もある。モザンビークの内戦は、彼らの家族をめちゃくちゃにし、東西ドイツの統一は、移民に対する地元住民の視線を厳しいものにする。
 単に社会派マンガなだけでなく、個人の抱える痛みにまできちんと降りて物語が作られているんで、大きな状況の中で起こる3人のドラマがめっちゃ泣けるんですわ!
 著者は大学を卒業した後にイラストを学んだ変わりダネ。日本のマンガばかり読んでる人は、最初のうち絵柄に面食らうかもしれないけれど、慣れてくるとフォークロア・アートの影響も濃いヴィジュアルがエモーショナルな場面でむちゃくちゃ生きているのがわかるはず。フェミニズム的な観点が息づいているのも素晴らしい。ズバリ必読!







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