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評者◆ベイベー関根
フランス人コンビが、日本の妖怪に出会う。
鬼火――フランス人ふたり組の日本妖怪紀行
アトリエ・セントー
No.3337 ・ 2018年02月03日




■セシルとオリヴィエは、しばらく新潟に住んでいたこともあるくらいの日本大好きフランス人コンビ。喫茶店マルグッタのカレーの味わいに惹かれて、新潟に舞い戻ってきてしまったふたりだが、セシルは怪しげな骨董品屋でバケモンが撮れるという安物のカメラを売りつけられてしまう。お化け探しの冒険に早くも胸を膨らませるセシル。だけど、日本の妖怪は今どこにいるのか? マルグッタのマスターの知り合いや偶然の出会いをたどって、ふたりは日本の伝承や現代文化、そして今を生きる人たちの素顔に触れていく。紅葉、原発、そして恐山へ……。しかし、骨董品屋で買ったカメラで使えるフィルムは、たったの1本のみ。はたして、妖怪カメラはお化けの姿を捉えることができるのか?
 というのが、アトリエ・セントー『鬼火』のあらまし。アトリエ・セントーは絵と写真を担当するセシル・ブランと、脚本と着色を担当するオリヴィエ・ピシャールのユニット(?)名。ジャンルとすると紀行マンガになるんだろうけど、日本だとエッセイマンガの棚に入れられるかな。その伝統にならって、主人公/狂言回しのふたりは日本マンガ風に描かれ、彼らの目に映る日本の人々や風物は基本的には写実的に描かれる。鉛筆の柔らかなタッチ、カラフルだけれどうるさくない水彩風の彩色、日本人の特徴を誇張せずに捉える観察眼、といった絵の素晴らしさもさることながら、エトランジェの目を通して見た小さなエピソードや人物像の積み重ねから、現代日本とその下に隠れているモロモロを浮かび上がらせる構成力には、非凡なものがあると見た!
 もうひとつ、フルカラーのバンド・デシネの場合、ページ単位/見開き単位での色調の統一が大切なので、それを無視したストーリーの展開は避けられるものなんだけど(ここはモノクロが多い日本のマンガとの小さくない違い)、それがもたらすちょっとのんびりしたくらいの話のテンポが、また気持ちいいねー。
 それと、日本への深い愛情と理解がもたらすものだと思うけれど、お読みいただけると、オリエンタリズムが極力排除してあること
がわかるはず。駒形千夏の翻訳も行き届いていて、たいへんけっこう!
 ちなみに、この作品を知ったのは、知り合いがこのBDに出てくるからなんだけどね(笑)。以前新潟を訪れたときに、その人から「フランスから面白い二人連れが来ててね、マンガを描いてるらしいんだけど……」と聞かされて、それは面白いに違いない! と直観、そして実際に作品を見ると期待をはるかに上回る出来栄えで、こういう驚きは嬉しいね! このふたりが、この先また面白いマンガを描いてくれるといいけどなあ。
 あ、そういえば、最初の問い、はたしてカメラに妖怪は映ったのか? これが実は映ってるんだな~。ウソ!? と思う人は、ぜひ本書を手にとってご確認してくだされ!







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