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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3167 ・ 2014年07月19日




●壁の外に向かった末っ子ライの冒険

▼勇者ライと三つの扉1 金の扉 ▼エミリー・ロッダ 著/岡田好恵 訳/緑川美帆 イラスト

 三人兄弟の末っ子ライはウェルドという街に住んでいる。高い壁に囲まれたこの街に住む者は壁の外に出ることはできない。壁のなかの平和な世界は、外の危険に満ちた世界とは隔絶されていて、壁には扉も穴もないから、壁の外に出ることも壁の外から誰かが入ってくることもない。
 平和なはずだった街に、数年前から毎年きまって夏になるとスキマーと呼ばれる怪鳥の大群が押し寄せてくるようになった。スキマーはネズミやアヒルやヤギや人間……あたたかい血を持つ動物ならなんだって容赦なくむさぼり食べる大きな鳥だ。夜になるとかならず現れるから、人々は日が落ちると家に閉じこもって、窓という窓を、扉という扉をすべて閉じておまじないの塩をまく。ライの父親は壁の上にある作業場で仕事中にスキマーにやられてしまった。兄弟三人と母親の四人家族はスキマーにおびえながら暮らしている。
 ウェルドを統治する総督に不満を持つ者は多い。なぜスキマーの対策をもっと早く徹底して行わないのかと。そんなある日、総督は壁の外へスキマー退治をしに行く志願者を募集する。資格は一八歳以上の男子であること。年齢の条件を満たしている長兄のダークが志願して壁の外へ向かった。一年経っても帰ってこない。次兄のショルトも志願していったが戻ってこなかった。兄たちを助けるため、ライは年齢をごまかして壁の外に向かうことにしたのだった。(7・18刊、四六判三三二頁・本体九〇〇円・KADOKAWA/メディアファクトリー)



●まいあさ、気持ちいいふとんとたたかうぼく

▼ぼくのベッド ▼マルタン・パージュ ぶん/サンドリーヌ・ボニーニ え/かわむら まきこ やく

 ぼくはまいあさ、どうしてもベッドからでられない。パパとママが起こしにくるけれど、やっぱりだめ。ほんとうはベッドから出たいんだけど、おふとんが気持ちよすぎて、でられないのさ。どうして起きないの、といわれても、ぼくはこまってしまう。こんなに気持ちのいいおふとんを買ったパパとママがいけないんだよ。
 ぼくは、おふとんとたたかわなければいけないじゃないか。でも、こんなに気持ちのいい敵と、どうしてたたかうことができる? みんなパパとママのせいだ。もっとざらざら、チクチクして、へんなにおいのするシーツだったら、ぼくだって起きられるさ。でも、そうじゃないってことは、ひょっとして、起きなさいといっているパパとママは、ほんとうはぼくを学校に行かせたくないんじゃないか。きっと、こんな気持ちのいいふとんにしたのは、パパとママの陰謀だ!
 まいあさ、ふとんとたたかうぼくの、とっておきのおはなし。(5・1刊、18cm×22cm三六頁・本体一二〇〇円・近代文藝社)



●日本にきて65年、ゾウのはな子の半生

▼せかいでいちばん手がかかるゾウ ▼井の頭自然文化園 ぶん/北村直子 え
 東京都武蔵野市の井の頭自然文化園には、今年67さいになるゾウのはな子がいます。1947年、タイに生まれ、2さい半で日本にやってきました。さいしょは上野動物園にいましたが、地元の誘致活動のかいあって、1954年に井の頭自然文化園にうつりました。いらい、ずっと愛され、親子3代にわたるファンもいるぐらいです。
 国内で最高齢のゾウであるはな子は、ふかいしわにおおわれ、鼻は白っぽくなっています。歯は1本しかありません。すっかりおばあさんですが、じつは世界でいちばん手がかかるゾウなのです。どうしてでしょうか。
 はな子は、9さいと13さいのとき、大きなじこをおこして2人をしなせてしまいました。しばらくくさりにつながれ、やせこけて、もとにもどるのに8年もかかりました。それからは、起きあがれなくなったり、歯がぬけてかたいものがたべられなくなったりと、いろいろなことがあって、飼育員はずっと苦労のしどおしでした。いまの飼育員の室伏さんは、はな子にはじめて会ったとき、自然と敬語で語りかけたそうです。この絵本は、はな子が日本にきてからの、65年の半生をえがいたものです。(4・8刊、24・5cm×23cm三六頁・本体一四〇〇円・教育評論社)



●ふかいうみにおちたにんぎょうテンちゃん

▼うみの100かいだてのいえ ▼岩井俊雄 作
 ここはうみにうかぶ、ふねのいえです。にんぎょうをかかえた女の子が、カモメにえさをあげようとしていました。と、そのとき、カモメのはねがぶつかって、大好きなにんぎょうが、うみにおちてしまったのです。
 にんぎょうのなまえは、テンちゃんといいました。テンちゃんは、どんどんうみにしずんで、きているものがぜんぶぬげて、はだかんぼうになって、ふしぎなあわのなかにすいこまれていきました。
 たどりついたのは、100かいまである、うみのせかい。あたまにかぶるこんぶをもらい、イルカやヒトデ、ウツボやタツノオトシゴとあっておともだちになり、代わりにきるものをもらっていきます。そうして、うみのいきものたちといっしょに、女の子のまっているふねへとのぼっていくのです。
 100かいだてのうみのなか、テンちゃんとすてきななかまたちのおはなし。(7月刊、22cm×31cm三六頁・本体一二〇〇円・偕成社)



●童話作家・新美南吉の閃光のような生涯

▼新美南吉ものがたり ▼楠木しげお 著/くまがいまちこ 絵
 北の宮沢賢治、南の新美南吉といわれるように、新美南吉は『ごん狐』や『手袋を買いに』などでひろく知られる童話作家です。でも、彼の人生についてはあまり知られていません。いったいどんな人だったのでしょう。
 南吉は一九一三年に愛知県で生まれました。四歳で母を亡くしてしまい、実家にあずけられるなど、小さいころはつらい日が続きました。そうして少年のころから、文学を志すようになりました。まだ一〇代のときに「すべての苦難は、試練であり、すべての試練は経験であり、すべての経験は貴くある」と書いています。
 高等女学校の先生になった南吉は、俳句や短歌や詩を書いたり、童話を書くようになります。こうして名作がつぎつぎと生まれていきました。ですが結核にかかり、弱冠二九歳で亡くなってしまいます。まるで閃光のような生涯でした。この本は南吉の童話を愛する若い読者に、イラストをまじえながら彼の人生をやさしく伝えています。資料編もあって、より詳しく知りたい読者のために役立ちます。(12・24刊、A5判一二四頁・本体一二〇〇円・銀の鈴社)



●やさしさあふれる森のうんどうかい

▼もみの木がっこうの うんどうかい ▼いまむらあしこ 文/すえざきしげき 絵

 森のまんなかにある、もみの木がっこうには、森の子どもたちがかよっています。あしたは、もみの木がっこうのうんどうかい。こだぬきは、ひといちばい元気いっぱいのいい子ですが、みんなといっしょにすることが苦手で、かけっこがびりになるとおもって、まえの日から泣いています。「もう、泣くな。びりの子だって、りっぱだぞ」。とうさんは、そうなぐさめて、松ぼっくりでかいじゅうのおまもりをつくってくれました。
 もみの木がっこうのみんなは、こだぬきがわがままで、さわぎやなのをしっていました。ともだちおもいのしんせつな子だということはわかっているけど、ダンスのれんしゅうはいっしょにしないし、かけっこでびりになるとおおさわぎして、みんなをこまらせてばかり。いったいどうしたらいいのでしょう。
 さてさて、もみの木がっこうのうんどうかいがはじまります。子どもたちにとって、いったいどんなうんどうかいになるのでしょうか。やさしさとおもいやりのこころをつたえる、とてもだいじなおはなしです。(5・26刊、B5変型判三二頁・本体一二〇〇円・女子パウロ会)







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