思想
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吉野源三郎『70年問題のために闘っている諸君へ』を読む
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書籍・作品名 : 『70年問題のために闘っている諸君へ』
著者・制作者名 : 吉野源三郎
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敦賀昭夫
66才
男性
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「山本君に言いたかったことー機動隊による封鎖解除の直後に(1969年)-」を読む
岩波書店の編集者の吉野源三郎さんは戦後民主主義政治を進める立場から発言し、行動する知識人でもありました。今から50年以上前、その吉野さんが70歳前後の発言を集めたのが本書です。講和、安保など全国民が態度決定を迫られたことの意味を問い、安保や米軍のベトナム戦争遂行に対し、なすがままの日本政府の戦争協力をやめさせる実効的行動を日教組や国鉄労組などの労働組合や小田実のべ平連などに働きかける対談を本書は掲載しています。
今回は個人的手記と吉野さんが言う「山本君に言いたかったことー機動隊による封鎖解除の直後に(1969年)-」を読みます。山本君とは当時の東大全共闘議長で、医学部紛争がきっかけでおこった東大解体の学生運動のリーダーだった山本義隆さんのことです。実は当時東大理学部の院生だった山本義隆さんは吉野さんの娘さんの数学の家庭教師だったということです。
この手記で吉野さんが当時、山本さんの存在や運動をどう受け止めようとしていたかがわかります。山本さんや全共闘運動について再考するときに、吉野さんの存在は大きな手掛かりになります。
まず山本さんの人物評価。身なりや権威にこだわらない清潔さ、理系でありながら社会問題に関心を持っていて、論理的思考や論点整理は鮮やかだった点。今も持ち続けておられる資質をまず指摘している。吉野さんがこだわるのは、暴力について。「大学当局との交渉になぜヘルメットとゲバ棒が必要なのか」。権力(警察)と対峙していることを示す象徴とはじめは答えていたそうですが、なぜ大学や学生に対して、「物理的強制力をもって迫ったり肉体的な拘束や暴行を加える」のか、その根拠はない。吉野さんはいう。そんなものを用いなくても機動隊の強権を用いずとも、東大解体を議論する場は持ち続けられたのでは。当時まだ中学生だった私もすこしは期待していた。議論の場をどう作るかはその後、今に至るまで考え続けています。
そこから、吉野さんは思想の急進化は、戦前の共産党に広まった福本イズムが「理論闘争」というかたちで、革命主体をめぐる泥沼の権力闘争に陥ったあゆみを挙げて、今回もその心配があるといいます。日共系民青系と全共闘系の闘い。甘い人間で当事者にはなれなかったので、消耗するところまではいけなかったが、私は今も党派の中で党派の病いを自覚し、それをなおしていく人生を送られた方にはかけることばもない。
山本さんはその一方の極の議長。全共闘の行動の責任は代表者である山本さんが負うことになる。民青系と全共闘系の暴力衝突の回避は難しい。そういっているうちに、1月機動隊が大学内に学生排除のため導入される。この機動隊による山本さんら全共闘系学生の拘束を吉野さんは「痛ましいアイロニー」と記している。機動隊を指揮する高級官僚になることを否定し、その高級官僚育成大学の解体を目指す学生が、過激派とよばれ、逮捕される、言論人にとって良心の問題だったのです。
学生の学内での暴行を鎮めるための機動隊、警察権力の介入はその後、まさしく国家権力の介入になり、封建的であったとはいえ、かつての大学の自治は、今に至るまで、省みられることなく、文部官僚、最近では総理や政治家の介入を堂々と許すようになっているようです。
最後に、この後どうするか。吉野さんは問います。「権力と対決しなければならぬというところまでは、思想の問題である。権力とどう対決するか、そこからが政治の問題である」。いくら良い理論でも大衆の運動に転化しなかったらだめ。山本さんはそれは政党の仕事だといったそうです。しかし彼らが考える、そんな政党はない。私には全共闘運動は大学の自治の消滅に終わったように思えてならない。山本さんの東大解体論はその後、封印された。しかし最近の山本さんの書物を読むと、吉野さんの議論の場で話してくださっているように思える。暴力の問題から何を学んだか。日常にある暴力、権力の暴力にもっと敏感でありたいと感じた。
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