文学
|
『老人と海』から見える西洋と日本の自然観の違い
|
書籍・作品名 : 老人と海
著者・制作者名 : ヘミングウェイ
|
chiiiii
19才
女性
|
|
『老人と海』は、キューバの年老いた漁師サンチャゴの、大魚との戦いを中心に描いたヘミングウェイの作品である。84日間続いた不漁の後、サンチャゴの餌に巨大なカジキマグロがかかる。そこからそのカジキマグロと老人の3日間にわたる死闘が始まる。老人は、体の痛みや孤独などの苦しみに耐え、今までの漁で培った知恵と感覚を活かして3日間という長い死闘を制す。そのカジキマグロは、老人の小舟には乗せられないほど大きな魚で、彼は船の外にカジキマグロを括り付けて帰路についた。しかし、カジキマグロに勝った喜びもつかの間、帰る途中にカジキマグロの匂いを嗅ぎつけて集まった何匹ものサメから、3日間の苦労の末にやっと手にしたカジキマグロが襲われてしまう。老人は残る力を振り絞ってサメと戦うが、結局彼はサメに負け、カジキマグロは骨だけになってしまう。
私はこの物語を読んで違和感を覚えることが度々あった。その違和感について考えていくと、その原因は西洋と日本の自然の捉え方の差にあるという考えにたどり着いた。
この物語の中には、「おれはかならずお前を殺してやるぞ」(ヘミングウェイ p59)「おれはやつを殺さなくてはならないんだ」(ヘミングウェイ p85)といった老人のセリフが何度も出てくる。これらのセリフから、老人が大魚を自分の敵、戦って勝たなければならない相手と捉えていると分かる。勝敗をつけるものとしているのだ。また、「人間は負けるように造られてはいないんだ」(ヘミングウェイ p118)、「人間は殺されるかもしれない、けれど負けはしないんだぞ」(ヘミングウェイp118)というセリフもでてくる。これらのセリフは、老人が釣り上げたカジキマグロがサメに襲われるときに発せられる。彼は自然と人間を全く別のものと考えているのである。さらに、人間は自然を相手に戦い続けるものだと捉えていると分かる。
私はここに、西洋の自然観が表れていると感じる。西洋の自然観というのは、自然を「人間と対立するものとし、人間の支配と利用の対象」(藤田 p3)と捉えるものだ。比較的穏やかな気候をもつ西洋でこそ生じる考え方である。このことは西洋の庭園を見てもわかる。西洋の庭園というのは、左右対称に秩序だって作られている。自然を加工してそこに美意識を見出す、つまり自然を支配しているのだ。サンチャゴの「カジキマグロを殺さなければならない、人間は勝てる」という考えは、このような、自然を人間の支配の対象とする考え方から生じたものだと言える。
一方で、日本の自然観とは、自然は人間の力が及ぶものではなく、また、人間も自然の一部だと捉えるものである。前段落に倣って例として日本の庭園を取り上げる。日本の庭園というのは、庭園という点で人工のものではあるものの、ありのままの自然のものを使い、できるだけ人の手が加えられたことがわからないように作られている。「自然にできるだけ手を加えず、自然と調和する」(浜園)ように作られているのだ。物理学者で随筆家の寺田虎彦は「日本の自然界が空間的にも時間的にも複雑多様であり、それが住民に無限の恩恵を授けると同時にまた不可抗内力をもって彼らを支配する、その結果として彼らはこの自然に服従する」(寺田)と述べている(ここでいう「彼ら」とは日本人のこと)。災害が多いがために人の力をはるかに超えた自然の力を多く見てきた日本でこそ生じた、自然を恐れと恩恵の対象とする考え方である。
私はこのような自然観を持った日本で育った。そのため、自然は支配できる対象、自然は人間と対立するものという考え方を獲得してはいない。だから、アメリカ出身のヘミングウェイの考え方が反映されている『老人と海』、そしてその主人公のセリフに対して違和感を覚えたのだ。そして、『老人と海』を読んだからこそ、日本と西洋の自然観の違いを実感することができた。皆さんもこの物語を読んで、そこに表れた自然に対する西洋の考え方を知り、自分がどのように感じるのか考えてみてはどうだろうか。 |
|
|
|
図書新聞出版 最新刊 |
|
『新宿センチメンタル・ジャーニー』 |
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』 |
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
|
|
書店別 週間ベストセラーズ
|
■東京■東京堂書店様調べ |
|
1位 |
マチズモを削り取れ
(武田砂鉄) |
2位 |
喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二) |
3位 |
古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹) |
|
|
■新潟■萬松堂様調べ |
|
1位 |
老いる意味
(森村誠一)
|
2位 |
老いの福袋
(樋口恵子)
|
3位 |
もうだまされない 新型コロナの大誤解
(西村秀一)
|
|
|
|