演劇
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フランス人が日本人の視点から、西欧文化を批判する試み
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書籍・作品名 : 『オイディプスの墓――悲劇的ならざる悲劇のために』
著者・制作者名 : 森本淳生訳、ウィリアム・マルクス著、水声社(2019)
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Y. O.
37才
男性
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古代演劇といえば、何が思い浮かぶだろうか。ソポクレスの『オイディプス王』はひっきりなしに上演されているように、おそらく誰もが知っている一番有名な劇である。しかしフランスの比較文学者、ウィリアム・マルクスは日本の能に触発されつつも、根本的な疑問を唱える。能については、モデルとなった人物の来歴や、舞台についての事柄が伝承で知られている。しかし西欧人はオイディプスについて、これらを知っているのだろうか。(日本人にとっては意外なことに、)これらの情報は全くわからない。しかし考証のための資料は失われてしまった。もはや完全に解きあかすことができなくなってしまった物事を、部分的な手がかりから推定していくこと––これが本書の課題である。
本書でマルクスは「場所」、悲劇の「概念」、「身体」、「神」などの4つのテーマをめぐって、近代文学がこれらをどう扱ったかを批判することで、オイディプスの正体を推理していく。そしてこれは具体的なことを伝承してこなかった西欧の文学の枠組みを批判する営為となる。「一般的な意味によれば、文学は、時代を超越した現代的意義と場所からの解放によって定義される」(40頁)。ところがマルクスは日本の能に触れることで新しい視点を得たと述べる。「欠損のある残存物がごくわずか残っているだけの失われたひとつの現実により正確に近づくために、理解しないことを受け入れること。これこそが、能の異文化的経験を通して私が採るにいたった方法である」(15頁)。
西欧人の見方から日本文学を理解する試みは、これまでも数多くあった。しかし本書は、日本の枠組みから、西欧の文化を批判的に理解している。こうした逆転の目線にこそ、日本人が本書を読む意義があるに違いない。訳文も読みやすく、フランス文学に親しみがない人に対して、配慮が行き届いている。研究者のみならず、演劇関係者にもおすすめ。
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